研究課題/領域番号 |
22K20311
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
中村 彩 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 流動研究員 (30964580)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 自閉スペクトラム症者 / 時間順序判断 / 音源定位 / 聴覚的空間認知 / 両時間音量差情報 |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)者の空間認知における聴覚特性についてマウスとヒトを対象に調査し、その特徴と神経基盤を明らかにする計画である。 研究を始めるにあたり、令和4年度には、ASD者の聴覚特性を評価するための実験系の確立に取り組んだ。先行研究のレビューを行い、ASD者では聴覚信号と空間との関連付けを評価するための実験系は確立されていない一方で、定型発達者の空間認知機能を探索する心理物理実験は、すでに多くの研究で実行されている。このため当初計画にもとづき、ヒトの空間認知機能に関する研究に精通した研究者との議論を行い、ASD者の聴覚的空間認知能力を評価するタスクについて調整と検討を重ねた。そのタスクを実行するための実験機材を準備し、予備実験および調整を行った上で、定型発達者28名およびASD者22名の協力を得て、ヘッドフォン耳聴下音源定位課題および聴覚的時間順序判断課題を実施した。既発表のASD者の触覚同様、聴覚でも2連続して提示した刺激音の提示位置が近いほど時間順序判断に必要な時間閾値が長くなることから、ASD者も定型発達者同様音情報の空間への位置付けを行った上で時間順序を判断していることが示唆された。一方、両耳間音量差情報を用いた音源推定では、ヘッドフォンから提示した音をより頭の前方で定位する傾向がみられた。以上の成果を、日本小児科学会滋賀地方会(口演発表)、日本生理学会(ポスター発表)にて報告した。 以上のように、本研究では、発達障害のなかでもASDに着目して、その聴覚の空間認知特性について、音源定位および時間順序判断における特異性の調査を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでASD者の空間認知機能に関しては、音源定位が苦手であると報告されているものの、どのような条件下でその非定型性がみられるのか、またどのような神経メカニズムに起因しているかは一定の結論が得られていない。本研究では、ヘッドフォンを用いた心理物理実験を行い、ASD者では両時間音量差情報に基づく音源定位において、定型発達者より音源を前方に定位する傾向を見出した。一方、先行研究から導き出した「ASD者は感覚情報を空間に位置付けずに時間順序判断を行っている」という仮説に基づき、聴覚情報から空間を認知する能力を調べるため時間順序判断課題を行なったが、定型発達者同様に音情報の空間への位置付けを行った上で時間順序判断を行っていることが示唆された。これらの結果を国内学会で発表した。この実験に関しては本実験を終えており、予定より前倒しで進めている。一方、ASDモデルマウスを用いた聴覚的空間認知機能の評価については、専門家との議論を通じて現在タスクを設計している。この実験に関しては、予備実験開始が次年度以降となり当初予定より遅れているが、全体としては概ね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ASDモデルマウスの聴覚特性を評価する実験系開発を進める。現在設計しているタスクを上半期のうちに実装し、予備実験の開始を目指す。上半期中に、野生型マウスで安定的な評価が可能となった場合には、引き続いてASDモデルマウスでの評価を行う。下半期中には結果をとりまとめて成果発表を目指す。一方、実験データ取得を終えたASD者の音源定位および聴覚時間順序判断課題については、上半期中に結果をとりまとめて論文発表を目指す。このASD者を対象にした実験の解析データから、抗ADHD薬が音源定位に影響する可能性が示唆されているため、ASDモデルマウスを用いた薬理学的な実験操作等についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
ASDモデルマウスを用いた聴覚空間認知機能に関わる実験系の開始が遅れており、当該実験に係る経費が次年度繰越となったため。実施そのものは当初計画通り行う予定であり、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金をあわせて使用する計画である。
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