本研究課題の目的は、幼児期における自己顔に関わる多感覚情報処理に着目し、他者との顔の類似性にもとづく共感性の基底にある認知機構とその発達的側面を明らかにすることであった。 本年度では、主に2つの研究を実施した。1つ目に、幼児期における自己顔の視覚情報の処理と自己認知の関係について検討した。当該研究では、生後24ヶ月児を対象に、鏡に映る自己像と写真に写る自己像への認識の有無が、自己顔に対する視線パタンや瞳孔拡張に関連するかを検討とした。自己顔を含む顔画像刺激を用いて正立方向または倒立方向で提示した。その結果、自己顔に対する視線パタンは顔の提示方向によって差異は見られなかったが、瞳孔拡張については正立方向の方が倒立方向に比べ、瞳孔がより拡張することが示された。自己鏡映像と写真に写る自己顔に対する認知と顔処理パタンに関連は見られなかった。この結果は、幼児期における自己鏡映像および自己顔写真の認知と自己顔処理の認知が独立して発達している可能性を示唆した。2つ目の研究として、生後6、9、12、18ヶ月の乳幼児を対象に、自己顔の視覚情報と自己の名前の音声情報をいつから統合的に認知できるかを検証した。手続きとして、はじめに各参加児の顔写真の撮影と母親の音声収録を行った。その後、年齢と性別の一致した他者の顔と自己顔が対提示されている間に、自己の名前をはじめ様々な母親の音声情報が流れる動画を提示した。乳児の視線運動は視線計測機を用いて測定した。最終96名(各年齢群24名)の乳児の視線データを取得して現在解析の段階にある。 研究期間全体を通じて実施した研究は、乳幼児期における自己顔処理の認知機序とその認知に関わる感覚情報の位置づけの理解に寄与する。
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