研究課題/領域番号 |
22K20328
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
中武 優子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 精神薬理研究部, リサーチフェロー (40966800)
|
研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
|
キーワード | ストレス脆弱性 / 心理的ストレス / 幼少期トラウマ / 精神疾患 / オキシトシン |
研究実績の概要 |
幼少期に過度なストレスを経験すると、後にうつ病や不安障害などの精神疾患の発症率が上昇する。これは、神経回路が未成熟な幼少期に外部からの刺激が加わることで、正常な神経発達が阻害され、後のストレスに対する脆弱性が生じるためと考えられている。現代では、メディアを介して戦争や災害など凄惨な場面に日常的に触れる機会が増大しており、これらは発達後のメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性がある。幼少期のトラウマ刺激への曝露は脳や精神機能の発達へ悪影響を及ぼすことが懸念されるものの、十分な知見は得られていない。本研究では、幼少期にトラウマ刺激を与えたマウスを用い、幼少期トラウマによるストレス脆弱性の脳内機序の解明を目指す。 本年度は、幼少期トラウマモデルを作成し、成長後の情動行動とストレスに対する反応性について解析を行った。離乳後のマウスに、同種他個体が別種マウスから攻撃を受ける社会的敗北場面を繰り返し目撃させ、トラウマ刺激を与えた。行動試験の結果、幼少期のトラウマ経験単独では成長後のうつ様行動や不安様行動に特に影響を及ぼさないことが確認された。一方、成長後のマウスに拘束ストレスを負荷した結果、幼少期トラウマ経験群は対照群と比較して血中コルチコステロン値が上昇することが確認された。さらに、成体期のマウスに繰り返し拘束ストレスを負荷した結果、幼少期トラウマ経験群は対照群と比較してより顕著なうつ様行動と不安様行動を示すことが確認された。以上より、幼少期にトラウマを経験することそのものは成長後の情動に影響を与えない一方で、後のストレスに対する反応が増大し顕著な情動行動の異常が生じるストレス脆弱性を形成することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた通りに幼少期トラウマモデルを作成し、成長後の情動行動とストレスに対する反応性を解析することができた。本年度の研究結果から、幼少期にトラウマを経験することで後に曝露されるストレスに対する脆弱性が形成されることが見出された。今後予定している遺伝子発現解析についても予備検討を進めており、回収した脳組織を用いて解析を行う準備が整っていることから、おおむね順調に進展しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、ストレス応答の主軸であるHPA系を調節する因子であるオキシトシン神経系に焦点を当て解析を行う。qPCR法やELISA法により、幼少期トラウマ経験とその後のストレス負荷による脳内の影響について解析を進め、幼少期トラウマによるストレス脆弱性との関連性について検討を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、旅費の支出が予定額よりも少なかったため、次年度使用額が生じた。 翌年度分として請求する助成金は、使用を予定している高額な試薬の購入と得られた成果の発表のために充てる予定である。
|