幼少期にトラウマを経験すると、成長後にうつ病や不安障害などの精神疾患の発症率が上昇することが知られている。これは、神経回路が未成熟な幼少期に外部からの刺激が加わることで正常な神経発達が阻害され、後のストレスなどの刺激に対する脆弱性が生じるためと考えられている。しかしながら、その詳細は不明である。本研究では、幼少期にトラウマ刺激を与えたマウスを用い、幼少期トラウマによるストレス脆弱性の脳内機序の解明を目指した。 離乳後のマウスに1日10分間10 日間連続で同種他個体が別種マウスから攻撃を受ける社会的敗北場面を目撃させ、幼少期トラウマモデルを作成した。集団飼育を継続し、成長後の情動行動とストレスに対する反応性および遺伝子発現について解析を行った。行動試験の結果、幼少期のトラウマ経験単独では成長後のうつ様行動や不安様行動に特に影響を及ぼさないことが確認された。一方、成長後のマウスに拘束ストレスを負荷した結果、幼少期トラウマ経験群は対照群と比較して血中コルチコステロン値の上昇やうつ様行動および不安様行動を示すことが確認された。さらに、内側前頭前皮質において、幼少期トラウマ経験群はTLR4やGFAPなどの遺伝子の発現が上昇していることが示された。以上より、幼少期にトラウマを経験することそのものは成長後の情動を変化させない一方で、後のストレスに対する反応を増大させ、うつ様行動や不安様行動など情動変容を誘発させやすくすることが示された。
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