対数型の非線形項をもつ非線形シュレディンガー方程式(NLS)の初期値問題を考え、エネルギー空間および高階のエネルギー空間における強解の一意存在を証明した。対数型の非線形項は原点における特異性のため、局所リプシッツ条件を満たさず、分散性による平滑化効果に基づいた不動点定理の援用では解を構成することができない。ほとんどの先行研究ではコンパクト性に基づいた方法で解の構成がなされていたが、本研究ではCazenave-Harauxが発見した不等式を自然に一般化し、近似解がコーシー列であることを示すことにより強解を構成した。この方法は従来のコンパクト性の方法と比べて初等的な議論であるというだけでなく、近似解の部分列を取ることなく極限先の解の存在を示すことができるという利点もある。また証明における可解性の議論は、非線形項の係数の正負によって状況が異なることを捉えており、これは先行研究の重み付きソボレフ空間における可解性の議論ではみられなかったことである。実際、関数の空間遠方における減衰度の対数オーダーの違いが重み付きソボレフ空間とエネルギー空間に差異を与えていることが分かっており、この空間の違いが方程式の可解性の議論に影響を与えるのは自然なことであると思われる。可解性の議論で得られたこのような知見は、多重ソリトンの構成や安定性、ソリトン同士の衝突といった複雑な解の大域挙動を解明する際にも重要な視点になることが期待される。 上記以外にも、対数型NLSの低い正則性における適切性、一般化微分型NLSの大域可解性、半波動方程式の進行波解の漸近形、NLSにおける定常解の安定性/不安定性の研究も行っており、それぞれにおいて進展があった。何れも非線形分散型方程式の孤立波に関する数学解析で重要なものであり、今後の発展が期待できる。
|