本研究課題では,消散型波動方程式が持つ波動性の本質に迫る為,線形消散型波動方程式の解の時空重み付き評価に焦点を当てて解析を行った.消散型波動方程式はその解の性質から,しばしば放物型方程式の代表である拡散方程式(熱方程式・不可逆過程)と双曲型方程式の代表である波動方程式(可逆過程)の中間に位置すると見做される.このことから消散型波動方程式の解析は,対応する数理モデルが記述する現象の理解を促すに留まらず,放物型性と双曲型性という全く異なる性質が成す階層構造の解明という数学的に非常に興味深い問題の足掛かりになると考えられる. 従来の消散型波動方程式の研究がその消散性に着目したエネルギー散逸を巧みに用いる放物型的手法が主だったのに対し,本研究では波動方程式(双曲型)に特有な重み函数を伴う最大値ノルムの評価に着目した手法の確立を目指し空間3次元において一定の成果を得た.具体的には,放物型尺度を持つ部分と双曲型尺度を持つ部分を併せ持つ重み函数を掛けた解の評価を導出した.この評価は,応用として冪乗型自己相互作用を伴う単独の非線形消散型波動方程式の藤田優臨界の場合の大域可解性を証明できるという点で理にかなった評価であることが分かる.さらに得られた線形消散波動方程式の解の評価を用いることで,中尾の問題と呼ばれる波動方程式と消散型波動方程式の連立系の初期値問題の大域可解性について部分的に最適な結果が得られることが分かった. 本研究で得られた結果の空間次元の一般化や最大値ノルム以外のノルムを用いた時空減衰評価の考察などは,消散型波動方程式の持つ波動性を明らかにするために今後も継続して行う予定である.
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