研究課題/領域番号 |
22K20353
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西早 辰一 東京工業大学, 理学院, 助教 (80966078)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジカル半金属 / 薄膜 / 量子輸送現象 / 磁性 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
磁性を持つトポロジカル半金属相(磁性ワイル半金属相)は、カイラリティと呼ばれる相対論的量子数に特徴づけられた3次元的なバンド縮退点(ワイル点)のペアを持ち、ワイル点の巨大なベリー位相とカイラリティに由来する、特異な量子化伝導や電荷・磁化の結合が予想されている。本研究では、磁性ワイル半金属の候補物質として理想的なエネルギー構造を実現するEuCd2As2およびその関連物質について、分子線エピタキシー法による高品質薄膜・ヘテロ構造を作製し、その量子化伝導・スピン伝導の解明を目指すものである。
初年度においては、格子整合の良いCdTe基板上での良質なEuCd2As2薄膜の成長条件の探索に注力し、互いに高い蒸気圧を持つCdとAsの供給比や、成長温度を制御することにより、高い結晶性を持つEuCd2As2の(001)軸配向した薄膜試料の作製に成功した。一方、電気伝導性を評価したところ、理想的な化学量論組成に近い試料では、低温でキャリアが局在化し絶縁体的な振舞を示すことが分かり、輸送特性の評価には、電界効果や化学置換によって、キャリアを導入する必要性を明らかにした。また、AsをSbに置換した磁性ワイル半金属物質EuCd2Sb2についても、薄膜作製に成功しており、高移動度な高品質試料において、ベリー位相を反映した系統的な磁気抵抗効果の解明に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子化伝導の観測にむけて高品質な薄膜試料の作製すべく、分子線エピタキシー法により様々な成長条件の探索を行った。各元素の供給量や成長温度、加熱処理等の成長過程を最適化することにより、磁性ワイル半金属物質のEuCd2As2およびEuCd2Sb2について、高い結晶性を持つ薄膜試料の作製に成功した。また、EuCd2Sb2薄膜は高い移動度を示し、低温における磁気抵抗およびホール抵抗の磁場依存性に、ワイル点の形成に由来する巨大なベリー位相の効果を反映する特徴を新たに発見した。これはその他の磁性ワイル半金属候補物質においても共通して観測されていた特徴であったが、ワイル半金属として理想的なエネルギー構造を持つEuCd2Sb2での系統的な研究によってはじめてその起源が明らかになったものである。一方、EuCd2As2に関しては、高結晶性の試料においても、低温で絶縁化する振舞を観測しており、化学量論組成に近く、キャリア濃度が低すぎる試料であるために、低温でキャリアが局在していることが疑われる。そこで現在、キャリア濃度の導入に向けて、電界効果デバイスの作製や化学置換した試料の作製に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
高品質な磁性ワイル半金属薄膜の作製に成功しており、基本的な輸送特性の評価については成功したため、次年度では電界効果や化学置換を駆使してキャリア制御を行うことで、磁性ワイル半金属における量子化伝導・スピン輸送の解明を進める。磁性ワイル半金属における種々の量子化伝導には精密な膜厚制御が必須である。高移動度試料において、20nm以下での量子化異常ホール効果や70nm以上でのワイル軌道量子ホール効果の観測を目指す。また、磁性体とのヘテロ構造の作製により、スピン注入や磁化反転等のスピントロニクス機能の検証も行っていく。
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