研究課題/領域番号 |
22K20356
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 哲至 京都大学, 理学研究科, 特定准教授 (80773530)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 外部共振器レーザ / 可視光半導体レーザ / レーザ冷却 / 量子シミュレータ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高波長安定・長寿命・小型の399nmレーザの開発である。このレーザは、イッテルビウム(Yb)原子の量子シミュレータ・光格子時計の小型化のボトルネックの1つとなっており、本研究が達成されれば、量子シミュレータ・光格子時計の可搬化・実用化が大幅に促進される。本研究では、窒化ガリウム半導体を用いた干渉フィルタ型外部共振器レーザ、および、Yb原子気体を用いたファラデーレーザを開発する予定であった。 2022年度は、窒化ガリウム半導体をもちいた干渉フィルタ型外部共振器レーザの開発に成功した。干渉フィルタ型外部共振器レーザは、従来の回折格子型にくらべ小型で高波長安定という利点がある一方で、可視光の半導体レーザを用いて構成した際に、徐々にパワーが減衰するという課題があった。本研究では、このパワーの原因が共振器ミラー表面での光集塵によるものであると考え、共振器ミラーをSABOC(Surface-Activated-Bonded Output Coupler、表面活性化接合された出力ミラー)に置換してこの課題を解決しようと試みた。SABOCは、2枚の石英基板を表面活性化接合で貼り合わせたもので、接合面で光を反射することで集塵を防ぐ。SABOCを用いて干渉フィルタ型外部共振器レーザを構成した結果、波長安定でイッテルビウム原子に共鳴な20mW弱の出力が得られた。本研究の予算は、主にこのレーザの性能評価のための電子機器の購入に用いられた。一方で、Yb原子気体を用いたファラデーレーザについては、Yb原子気体を生成するため、原子ビームオーブンを始めとした真空装置を設計・調達した。 本研究で得られた知見の一部を利用して、Yb原子の内殻電子を励起する時計遷移の観測に成功した論文が、2023年4月15日に、国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、高波長安定・長寿命・小型の399nmレーザの開発であり、2022年度は、窒化ガリウム半導体をもちいた干渉フィルタ型外部共振器レーザを開発する予定であった。 実際、2022年度は、申請時の予定通り、窒化ガリウム半導体をもちいた干渉フィルタ型外部共振器レーザを開発した。本光源は、20mW弱の出力であり、かつ、Yb原子の共鳴波長において波長安定な手のひらに乗るサイズのコンパクトな光源である。これは、イッテルビウム(Yb)原子の量子シミュレータのプローブ光源として十分な性能であり、量子シミュレータの小型化に向けて重要な成果である。 さらに、ファラデーレーザ検討のための、原子ビームオーブンや真空装置の設計・発注を行った。以上の事から、研究は予定以上に進行したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、高波長安定・長寿命・小型の399nmレーザの開発である。このレーザは、イッテルビウム(Yb)原子の量子シミュレータ・光格子時計の小型化のボトルネックの1つとなっており、本研究が達成されれば、量子シミュレータ・光格子時計の可搬化・実用化が大幅に促進される。 2023年度は、2022年度に製作した窒化ガリウム半導体をもちいた干渉フィルタ型外部共振器レーザがイッテルビウム(Yb)原子量子シミュレータのプローブ光源として使用可能であるかを、現在開発中の小型量子シミュレータを用いて評価する。その際に、2022年度の評価に含まれなかった、長期的なパワー・波長・モードの安定性を評価し、開発した光源が実用に足るかどうかを評価する。さらに、表面活性化接合と比較してより製作自由度の高い、新しい接合法である原子拡散接合を用いた結合ミラーを製作し、長寿命な可視光干渉フィルタ型外部共振器レーザが構築できるかを評価する。さらに、2022年度購入した原子ビームオーブンや真空装置を組み立て、原子安定化に利用可能な、高輝度で安定な原子線を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度計画している、作成中のクラウド型量子シミュレータを用いた光源の評価に、より重点的に予算を使用する計画と変わったため、次年度使用額95.596円が生じた。
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