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2022 年度 実施状況報告書

回路擬似的ブラックホールを用いた情報パラドックスの理論的研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K20357
研究機関広島大学

研究代表者

片山 春菜  広島大学, 先進理工系科学研究科(総), 助教 (70963685)

研究期間 (年度) 2022-08-31 – 2024-03-31
キーワード擬似的ブラックホール / ソリトン / 超伝導量子回路 / ホーキング輻射
研究実績の概要

1. ホーキング輻射観測に向けた取り組み
これまでに我々は,ジョセフソン伝送線路に存在するソリトンを用いて,回路中の電磁波速度を空間的に変調し,電気回路上に擬似的にブラックホールを創生した.そこでは,4波混合により,ホーキング輻射が増幅される.しかし,一般に4波混合過程では,シグナルとアイドラの周波数はポンプの周波数に近く, これらの分離が困難なため,ホーキング輻射の観測の障害となる. そこで,超伝導非対称非線形誘導素子で実現されるシグナルとポンプの周波数が離れた3波混合を用いてホーキング輻射が増幅される新たな擬似的ブラックホールを考案した.この回路では既にマイクロ波エンタングルメント・フォトンが生成されることが実験においてが報告されており,ホーキング輻射の実験的観測が期待できる.また,数値計算により,ソリトン・ブラックホールの伝播特性を調べ,具体的な実験条件を求めることができた.
2. ブラックホールソリトンの減衰過程の定式化
これまで,我々は,ブラックホールは定常的なものとして扱い,ホーキング輻射が放出された際の反作用を考慮してこなかった.しかし,実際にはホーキング輻射により,ブラックホールからエネルギーが取り出され,ブラックホール自身がエネルギーを失うため,ブラックホールは小さくなることを考慮する必要がある.ホーキング輻射が引き続き起きると,最終的には,ブラックホールは消失(蒸発)する.このブラックホール蒸発過程を我々のシステムにおいて再現することを試みた.具体的には,ソリトンとホーキング輻射の相互作用を取り入れることにより,ソリトンの減衰の定式化に成功した.これにより,ブラックホールが蒸発した後にブラックホールの内部にある情報が保持されるか,消去されるかというブラックホールの情報パラドックスを考えるための土台を確立することができた.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

これまで提案されてきた擬似的ブラックホールにおいても容易でないホーキング輻射の観測を飛躍的に改善する新たな擬似的ブラックホールを提案した.国内の学会3件と国際会議3件の発表,並びに論文1件が査読中である.また,計画通りそのシステムにおいて,ホーキング輻射のソリトンへの反作用を定式化することで,情報パラドックスの研究の舞台を準備することができた.研究計画がおおむね順調に進展していると言える.

今後の研究の推進方策

1. 超伝導量子回路における擬似的ブラックホールの量子減衰過程の定式化
これまで,ソリトンとホーキング輻射の相互作用を取り入れ,半古典近似の元で,ソリトンの減衰の導出に成功した.今後は,それらの量子相関に注目し,ソリトンとホーキング輻射のエンタングルメント・エントロピーなどを評価する予定である.
2. 非平衡量子トンネリングを基にしたホーキング輻射理論の構築
相対論版Caldeira-Leggettトンネル理論を用いて,量子ゆらぎによって対生成される多数の粒子が,トンネル粒子に対して環境粒子として作用することを取り入れ,ホーキング輻射を取り巻く環境に情報が記録されるという仮説を研究する.そのような状況では,システムは非平衡にあると考えられるので,ゆらぎの定理をもとに非平衡熱力学との関係を明らかにし,ブラックホールの熱力学的特性とトンネル効果を通した量子力学的特性の関係を明らかにする.
3. 情報パラドックスの検証
以上をもとに,情報パラドックスの検証方法について検討する.上で定式化された擬似的ブラックホール・ソリトンの減衰過程をもとに,現実の宇宙空間にあるブラックホールでは確認できないPage理論を実験室系で検証可能にするシステムを提案する.

次年度使用額が生じた理由

2023年度のヨーロッパ出張にかかる必要経費のために,2022年度の使用額の調整を行なった.2023年度は,4月から5月に,Aalto University(フィンランド・エスポー)にて,超伝導量子回路実験グループとの議論を行い,超伝導回路における我々の擬似的ブラックホールの実験的実現可能性ついて検討するとともに,5月から6月には,Kastler Brossel Laboratory(フランス・パリ)にて,量子光学系において擬似的ブラックホールを提案しているグループと擬似的ブラックホールの蒸発について議論する計画である.また,その間にスペインで開催される国際会議Analogue Gravity in 2023とイタリアで開催される国際会議Quantum simulation of gravitational problems on condensed matter analog modelsで発表予定である.

備考

本研究に関する受賞歴
・ロレアルーユネスコ女性科学者日本奨励賞物質科学分野, 日本ロレアル株式会社代表取締役社長, 日本ユネスコ国内委員会事務総長, 2022年09月07日
・第53回(2022年秋季)応用物理学会講演奨励賞, 公益社団法人応用物理学会会長, 2023年3月15日

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] Dartmouth College(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Dartmouth College
  • [学会発表] 超伝導非線形非対称誘導素子を用いた擬似的ホーキング輻射の理論的研究 II(第53回講演奨励賞受賞記念講演)2023

    • 著者名/発表者名
      片山春菜,畠中憲之,藤井敏之,Miles P. Blencowe
    • 学会等名
      第70回応用物理学会春季学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 超伝導非対称非線形誘導素子を用いた擬似的ブラックホールソリトンの理論的研究 II2023

    • 著者名/発表者名
      片山春菜,藤井敏之,畠中憲之,Miles P. Blencowe
    • 学会等名
      日本物理学会2023年春季大会
  • [学会発表] Analogue black holes in superconducting circuits using SNAILs2023

    • 著者名/発表者名
      H. Katayama
    • 学会等名
      Women at the intersection of mathematics and theoretical physics meet in Okinawa
    • 国際学会
  • [学会発表] 超伝導非線形非対称誘導素子を用いた擬似的ホーキング輻射の理論的研究2022

    • 著者名/発表者名
      片山春菜,畠中憲之,藤井敏之,Miles P. Blencowe
    • 学会等名
      第83回応用物理学秋季学術講演会
  • [学会発表] Analogue soliton black holes in superconducting transmission lines with SNAILs2022

    • 著者名/発表者名
      H. Katayama, T. Fujii, N. Hatakenaka, M. P. Blencowe
    • 学会等名
      Quantum Information Structure of Spacetime (QISS2022)
    • 国際学会
  • [学会発表] A soliton black hole using SNAILs2022

    • 著者名/発表者名
      H. Katayama, T. Fujii, N. Hatakenaka, M. P. Blencowe
    • 学会等名
      HIGGS Centre Workshop: Analogue models of gravity and fluctuation-induced phenomena
    • 国際学会
  • [学会発表] 電気回路ブラックホールレーザーの理論 (特別記念講演)2022

    • 著者名/発表者名
      片山春菜
    • 学会等名
      レーザセンシング学会
    • 招待講演
  • [備考]

    • URL

      https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/72886

  • [備考]

    • URL

      https://www.hiroshima-u.ac.jp/adse/news/76026

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公開日: 2023-12-25  

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