研究課題/領域番号 |
22K20373
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 翔也 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 特別研究員 (10963176)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 核分裂 / rプロセス / 中性子過剰核 / 動力学模型 / ランジュバン方程式 / 原子核理論 |
研究実績の概要 |
これまでrプロセス計算へ用いられてきた現象論的な核分裂理論模型を超えて、ランジュバン方程式を採用した散逸揺動定理に基づく動力学模型を用いて核分裂およびそれに伴う即発中性子放出の計算を行った。 まず中性子過剰核領域に対応したポテンシャル計算の改良、特に原子核の形状を決定する上で重要な要素であるネックパラメータの調整を行い、新たに中性性過剰領域の核種における核分裂計算を行った。その結果、実験にて報告されている、フェルミウム原子核について質量数が257から258へ変化した際に発生する急激な分裂モードの変化を理論計算によって再現し、分裂経路の違いから説明することに成功した。また、ウラン原子核について中性子過剰領域の核分裂を調べたところ質量非対称分裂から質量対称分裂へと変化する傾向を確認した。この結果は、rプロセスに関連する分裂後の核分布(質量数100から150付近)に影響を与えるものである。 rプロセス計算では核分裂生成物の核種を決定する必要があるため、分裂片の電荷比を質量比と同様とするUCD(Unchanged charge density)仮定を採用し、分裂片の質量数だけでなく陽子数を評価した。この陽子数に基づき分裂片の全運動エネルギーをクーロン力と分裂前に原子核の持っている運動エネルギーの和として評価した。 ランジュバン計算では分裂直後の不安定核から放出される即発中性子については十分な調査を行ってこなかった。そこで新たにランジュバン計算と統計模型を組み合わせることで新たに核分裂片から放出される即発中性子放出多重度の評価、および中性子過剰領域における核分裂片質量分布の変化を調べた。統計模型には汎用核データ計算コード(CCONE)を組採用している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はランジュバン計算と統計模型を組み合わせることで新たに核分裂片から放出される即発中性子の評価に成功し、目的を達成することが出来。その過程で問題となった模型同士を組み合わせる際に必要となる物理量を決め、整合を図る作業が想定より順調に進み、早い段階で問題なく計算結果を出力することができた。その後、いくつかのパラメータ調整することで、質量数236のウラン原子核において、核分裂片の質量数に対する即発中性子放出多重度が鋸歯形状の分布を示すという、実験で観測される傾向を理論計算によって再現することに成功した。以上の研究成果により、本研究の最終的な目標であるrプロセス計算に向けた核分裂データベースの構築に向けて必要とされる基本的な物理量である、核分裂片の質量数、陽子数、運動エネルギー、即発中性子放出数の評価がランジュバン計算によって可能となった。この理論模型を用いて安定核領域も含めrプロセスに関連する核分裂データを順調に収集できている。 また、今後広大な範囲の核種における核分裂データを収集することを想定し、計算の高速化へ向けたコード開発を行い、並列化効率を向上させることに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
統計模型コードを用いて新たに分裂片からの即発中性子放出を評価することができた。今後は、理論模型における各種パラメータの調整及び中性子過剰核への適応性に関する議論を行い、安定核種において存在する実験データを再現するベンチマークを行う。その結果を踏まえて中性子過剰核への適応に向けたパラメータセットの構築し、いくつかの中性子過剰核の核分裂を評価する。 この理論模型を使用して網羅的に中性子過剰核の核分裂を評価し、原子核の中性子数が増えた場合に安定核に比べて核分裂のメカニズムに変化が現れるのかを調べ、その変化の傾向や規則性について議論する。また、研究の過程で動力学模型計算に採用している微視的模型の計算精度および適用範囲を検証する。 rプロセス計算へ利用可能な数値データに必要な核分裂片の質量数および荷電分布、運動エネルギー、即発中性子数、寿命などを核種毎に評価し、核分裂データベースを構築する。また、本研究で構築したデータベースを使用したrプロセス計算を行う。その結果と他の理論模型を採用した時との変化について議論し、核分裂に関する評価量が元素組成へ与える影響を調べ、計算精度の向上を目指す。 以上の研究成果を3報の論文として投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ禍により研究会の件数が想定より少なく、国外への出張が無かったため次年度使用額が生じた。本年度は国際会議への参加が2件決定しているため、計画的に研究費を使用できる見込みである。
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