研究課題/領域番号 |
22K20380
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
上田 裕尋 東京農工大学, 学内共同利用施設等, 特任助教 (20963953)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 呼吸運動 / 重心 / 二足歩行性 / 恐竜類 / 鳥類 |
研究実績の概要 |
脊椎動物において呼吸機能は生存に欠かすことができない行動である。呼吸に応じて胸郭および肺の容積が変化し、また内臓の位置や形状も変化する。これらの形状変化は胴体の重心の位置の変化を生じていることが容易に想像できる。鳥類は気嚢を用いた複雑な呼吸システムを持っており,飛行中にも重心位置が安定していると考えられてきた。一方で,この呼吸に伴う重心位置の変化は実測され検証されたことはなかった。また,化石記録から鳥類に見られる気嚢を用いた呼吸システムは基盤的な獣脚類で既に獲得されていた頃が示唆されている。本研究では,鳥類の呼吸に伴う重心位置の変化を実測し,特殊な呼吸システムにより重心位置が本当に安定化しているかを検証するとともに,この呼吸システム及び重心位置変化の安定化が飛翔能力ではなく,二足歩行性の獲得によって生じたのではないかという仮説の検証に挑戦している。 本年度は、円安の影響によりソフトウェアの価格高騰が生じ、一部のソフトウェアの購入が難しくなってしまった。そこで研究の順番を変更し,現生動物標本(マウス,ニホンヤモリ,メガネカイマン)のCTデータを用いた胸郭運動の比較を進めることとした。肺に空気が入っていない状態の標本をCT撮影したのち,気管から空気を送り込み強制的に肺を膨らませた状態で再度CT撮影した。この二つのCTデータから作成した骨格3Dモデルを用いて,肺内部の空気の有無に伴う肋骨の動きを計測した。この結果,主としてマウスとメガネカイマンは肋骨の基部を軸に肋骨が回転し,胸郭容積が拡大しているのに対して,ヤモリでは肋骨の基部が椎骨との関節面をスライドすることで胸郭容積が拡大していることがわかった。これらの違いは肋骨基部の形態の違いが影響している可能性がある。本結果を参考に,次年度実施予定の生体実験の結果の解釈を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の円安の影響により、センサー類およびソフトウェアの値段が著しく上昇し、研究計画を立て直さざるを得なくなった。当初の予定では、生体実験に用いる圧力分布センサーを動かすソフトウェアを先に購入し、予備的な実験を進めていく予定であったが、購入が難しくなってしまった。しかし、価格が高騰したものの、CTスキャンデータから3次元立体構築を行うソフトウェアAmira3Dを購入することで、3Dデータから胸郭運動の解析を進めることができると考え、先にこのAmira3Dソフトウェアを購入し、CTスキャンデータの取得し、立体構築を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はCTデータを用いた現生動物標本の胸郭運動の測定を進めた。次年度は生体を用いた呼吸に伴う重心位置の変化の測定実験を進めていく予定である。呼吸に伴う重心位置の変化は,足裏の体重分布などを測定することができる圧力分布センサーを利用する。このセンサーの上に実験動物を載せリアルタイムで計測する。足裏にかかる体重の圧力分布を計測するとともに,ビデオ撮影を行うことによって,呼吸運動とそれに伴う足裏の圧力分布の変化を連続的に計測していく。ビデオで撮影された動物の映像を用いて,呼吸運動の周期を計測する。また,足裏の圧力分布から重心位置を計算し,その位置の時間変化を算出する。周期と重心位置の座標を合わせて,呼吸周期に伴う座標の変化方向を割り出す。四足性動物と二足性動物の計測結果を比較することで,動物の呼吸に伴う重心の位置変化のパターンを明らかにする。本年度の結果から,同じ四足性動物でもワニ類とトカゲ類では呼吸に伴う胸郭の形容変化様式が異なっている可能性が示唆された。そこで,次年度ではトカゲ類とワニ類の生体をもちいた計測実験がそれぞれ必要であると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
円安の影響を受け,半導体及びソフトウェアの本年度中の入手・購入が難しくなり,研究計画の順番と内容の変更した。これにより標本のCTスキャンデータを用いた胸郭運動の計測を先に進めることとし,動物の生体をもちいた計測実験を次年度に遅らせることとした。そのため,生体をもちいた呼吸に伴う重心位置の変化を測定するために必要なセンサーおよびソフトウェアの購入を本年度は行わなかったため,次年度使用額が生じている。次年度は,この次年度使用額を含め,次年度にセンサー及びソフトウェアを購入し、生体をもちいた計測実験を進める予定である。
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