研究実績の概要 |
水環境中におけるリン酸循環の理解は、環境変化の現状診断や将来予測を実現する上で重要である。リン酸の負荷源推定の指標として、リン酸の三酸素同位体組成(D'17O)が新指標として有用であることがSambuichi et al. (2023)で報告されている。本研究は、低リン酸濃度の河川水中のリン酸のD'17O分析を目指した高効率なサンプリング手法の開発を目的とした。 現場リン酸濃縮法の開発のために水酸化アルミニウム(Al)ビーズを吸着担体としたリン酸吸着実験を行った。Alビーズ充填カラム(直径7cm高さ23cm)にリン酸溶液([PO4]=10 umol/L)を70 L通水した。水温を9ー42℃に保温した通水溶液をカラムに0.6L/minの流量でそれぞれ通水した結果、吸着率は11ー34%となり水温が高いほど高くなった。次に、リン酸が吸着したAlビーズを80℃に加熱した5mmol/Lの水酸化ナトリウム溶液に5分間浸漬した結果、吸着したリン酸の55±3%を液相中に抽出できた。つまり、一連のリン酸吸着・抽出を行うと通水したリン酸量の11±5%が回収可能である。 次に、上述の条件で吸着・抽出したリン酸の酸素同位体組成を測定した。常温で吸着させたリン酸のd18OおよびD’17Oは、それぞれ+8.6±0.5‰と-0.059±0.02‰だった。通水したリン酸の酸素同位体組成(d18O=+13.3‰, D’17O=-0.071‰)と比較すると、抽出したリン酸のd18Oは有意に低い値である一方、D'17Oは誤差の範囲で一致していた。これは、Alビーズへの吸着・抽出過程における同位体分別によってd18Oは変化したが、質量依存同位体分別であったためD'17Oは変化しなかったと考えられる。したがって、Alビーズカラムを用いたリン酸濃縮法は、D'17O分析を目的としたサンプリングに適した手法であると結論した。
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