研究課題
本研究では、スロー地震とよばれる、通常の地震よりも特徴的な時間が長い現象を対象として、四国の室戸岬沖に敷設されている光ファイバーケーブルを使った、ケーブル各所の歪を観測する技術である分布型音響センシング(DAS)の観測データの解析を行った。解析データは、2022年1月から3月までのデータを対象とし、2-10 Hzの周波数帯で観測されるスロー地震である微動を29個検出した。検出された微動は、2022年1月30日から2022年2月8日の期間に発生していた。DASのデータに加えて、南海トラフ沿いに敷設されている地震観測網DONETのデータを併用してこれらの微動の震源決定を行った結果、微動の震源は主に東経134.7度・北緯32.8度付近に集中しており、沈み込んだ海山の頂上から南海トラフ側で活発に活動することを明らかにした。このことから、微動活動と構造との関連性が示唆される。検出された微動のシグナルの時間に同期して、0.02-0.05 Hzの周波数帯のDONETのデータでは、長周期で観測されるスロー地震である超低周波地震(VLFE)のシグナルが確認され、DASで観測された微動とVLFEが時間的に同期していることが確かめられた。DASで観測された微動のシグナルは、50-100 mという非常に狭い範囲のDASチャンネルでコヒーレントであり、これは地下の細かいスケールの不均質性を反映するものと考えられる。また、DASで観測された微動のシグナルの継続時間は、DONETで観測されたものよりも長い傾向があり、今後両者の違いの要因を検討する必要がある。本研究は、DASを使って浅部微動が観測できることを確かめた初めての研究であり、DASによるスロー地震観測の先駆的研究となりうると考えている。
2: おおむね順調に進展している
本研究の第一の目的は、分布型音響センシング(DAS)の観測データを使ってスロー地震の検出を行い、従来の観測網よりもより高解像度な震源決定を行うことである。2022年度は、DASでスロー地震の検出を行い、震源決定まで進めることができた。現在までに検出できた微動の震源位置は、いずれもDAS観測に使った光ファイバーケーブルの先にあたるため、直上での観測ではなく、震源決定の解像度については今後検証の必要があるが、南海トラフと直交する方向において、沈み込んだ海山などの構造と微動の震源分布の関係を明らかにできた点は、南海トラフと直交する方向に延びている光ファイバーケーブルを使ったDAS観測の利点と考えられる。また、DASで観測された微動のシグナルの特徴や、海底地震計で観測された微動のシグナルとの相違点は、本研究によって明らかになったものであり、今後、DASで観測された波形の性質の詳細な検討を行う必要があると考えている。本研究の成果は、2022年度日本地震学会秋季大会や、国際学会であるAGU Fall Meeting 2022などで発表されたほか、投稿論文として国際誌に投稿中であり、査読を受け改訂中である。第一の目的はある程度達成でき、学会で成果を発表し、論文として投稿・査読まで進んでいることから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
本研究の目的は、南海トラフ沿いの海域のスロー地震の活動様式を高精度で明らかにすることであり、そのためにはスロー地震の震源およびエネルギーを高精度に推定する必要があると考えている。スロー地震のエネルギーは、同程度の規模の通常の地震に比べて数桁小さいと考えられていて、スロー地震と通常の地震の違いを特徴付ける物理量である。2022年度に、分布型音響センシング(DAS)で観測された微動(2-10 Hzで観測されるスロー地震)の震源決定を行ったので、今後はDASのデータを使って微動のエネルギー推定を行う。従来の地震のエネルギー推定手法は、地震計で観測される速度波形を使ったものであるため、まずDASで観測される歪波形を、速度波形に変換する必要がある。DASおよび従来の地震観測網で観測される、南海トラフ沿いの地震の波形を使って、DASで観測される歪波形と、地震計で観測される歪波形の間の関係を検討する。ここで導き出した関係を使って、DASで観測される歪波形を速度波形に直し、DASとDONETのデータを併用して微動のエネルギー推定を行う。従来の地震観測網よりも空間的に密な観測が行えるDASのデータを併用することで、先行研究よりも精度の高いスロー地震のエネルギー推定ができる可能性がある。
2022年度は、コロナ禍の影響があり、採択が決まった時点では場所・期間などの詳細が分かっていなかった国際研究集会があった。その国際研究集会が3月に台湾で行われ、参加し、本研究に関する内容の発表を行ったが、欧米よりも日本からの距離が近く物価が安いため、出費が当初の予想よりも安く抑えられた。一方、2023年度は、コロナ禍の状況がよくなり、国際研究集会への参加も増えると考えられるため、それに伴う出費の増加が予想される。そのため、次年度使用額が生じた。
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