超短パルスレーザによる透明材料への改質書き込みは光集積回路制作に必須の技術であるが,改質は透明材料内のレーザの非線形伝搬・吸収の結果生じるため,改質領域の能動的な制御が難しく,低損失な光導波路の高効率書き込みは実現していない.本研究は,超短パルスレーザ照射による透明材料への改質書き込みにおいて,改質領域の空間制御を実現し,低損失な光導波路の高効率書き込みを達成することを目的としている. 初年度にまず超短パルスレーザによって生じる透明材料内の電子励起領域分布と,結果生じる改質分布(屈折率分布)を同一光学系で定量計測する手法を開発した.具体的には,超短パルスレーザによって生じる励起電子密度を測るポンププローブ観察の機能と,加工直後の屈折率を測定するマッハツェンダー干渉計測法の機能を同一光学系に実装・測定し,アーベル変換によって三次元の材料情報を取得する.定量計測結果から,高電子励起密度領域と屈折率変化領域の長さの相関を明らかにした。 さらに当該年度は,複数のパルスの重複によって光導波路が形成される過程に注目し,光導波路内部で屈折率の上昇が生じる過程の定量計測に成功した.1パルスのレーザ照射のみでは,光導波路内部に屈折率上昇は生じないが,複数パルスによるひずみの蓄積によって導波路内部で屈折率上昇が生じる.さらにレーザ照射領域周辺での損傷閾値の低下により,2パルス目以降のレーザ照射時には損傷領域が拡大し,クラックの原因となることを明らかにした.このことから,石英への光導波路書き込みにおいて,光導波路を形成するのに十分な屈折率変化導入と損傷部制御の両立のため,光導波路を形成する改質壁間の間隔と,レーザ照射ピッチが重要であることが明らかになった.得られた加工条件を用いて,α水晶内に従来研究結果と比較して20倍以上高速な1.5 mm/sで,伝搬損失5 dB/cmの導波路書き込みに成功した.
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