前立腺癌発生時における腫瘍微小環境模擬を目的として、前立腺がん細胞と前立腺正常上皮細胞を単一細胞レベルで配列・培養可能なマイクロ流体デバイス開発を行なってきた。デバイスは、細胞を流すための流路、細胞を誘電泳動により捕獲するためのウェルアレイ(各well直径20μm)から構成される。これまで、誘電泳動によりウェルアレイ上で細胞を捕獲することに成功した。一方で、捕獲した細胞を培養することに課題があった。 そこで、本年度は誘電泳動で捕捉した細胞を培養する手法・デバイスの開発に取り組んだ。誘電泳動により細胞を捕捉する局面では、導電性が20 mS/m程度と低いバッファを使用する必要があるが、細胞を培養する局面では培養液を流路に導入する必要がある。しかし、培養液の導電性は非常に高いため、送液中に誘電泳動が働かなくなってしまい細胞が剥離するという問題が発生した。そこで、液置換の問題を克服するための手法やデバイス開発を行なった。具体的には、①デバイス内部の流路で細胞を捕捉→②デバイスの天井を解放し、デバイスの天地を逆転→③誘電泳動をoffにして、細胞を培養液が入った別の容器に落下、という手順である。この手順を実現するため、流路天井を誘電泳動時は密閉、移送時は開放可能なデバイスを開発した。開発したデバイスを用い、誘電泳動で捕捉した細胞の重力による移送を試みたところ、半数以上の細胞を培養液中へ移送することができた。一方で、前立腺がん細胞と前立腺正常上皮細胞の共培養という点においては、培養液の種類が異なるため両細胞種を培養することが難しかった。今後、培養手法の対策を行うことが必要である。研究期間を通じ、単一細胞レベルで細胞を配列し培養するという技術を開発することに成功した。
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