研究課題/領域番号 |
22K20404
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
大下 雅昭 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (10964025)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 表面プラズモン共鳴 / 化学量センサ / ショットキー障壁 |
研究実績の概要 |
本研究では神経伝達物質の計測を目的とした、直接脳内に埋め込み可能な表面プラズモン共鳴(SPR)型化学量センサを実現する。社会的相互作用(例:闘争、繁殖)に関する脳機能の解明には、複数の動物の参加が必須であり、それらの動物の活動を制限しない脳神経活動の無線計測が不可欠である。脳内物質濃度の無線計測に適用可能な技術は、電気的にインピーダンスを計測し、目的とした化学物質の濃度に換算する電気化学測定法のみである。しかし、電気化学測定法には社会的相互作用と関係の深いオキシトシンなどの神経ペプチドを生理活性のある下限の濃度まで計測できない問題があった。一方、SPR型化学量センサは検出下限に問題はないものの、嵩張るプリズムと装置外部に光検出器が必要で脳への埋込が困難であった。そこで本研究ではSPRセンサは回折格子を用いることで平面上での伝搬型SPRカップリングを行い、伝搬先に設置した半導体接合でSPRの検出を行う構造の原理実証に取り組んだ。2022年度は提案構造の原理を検証するために1インチガラスウエハ上に金回折格子を形成し、その上部に光検出部を設けた構造を設計・試作し、実際にSPRを検出可能か検証を行った。製作した構造に対して光を入射し、センサが出力する電流値を入射角毎に計測した。その結果、電流値を入力した光強度で割った値である応答性は回折次数m=-2のモードにおいて反射率計測による入射角位置と同じ角度でピークを取り、理論式とも合致することがわかった。以上の結果より、提案した原理によるセンサが光照射によってSPRを電気信号として計測可能であることがわかった。現在は、神経ペプチドの一種であるオキシトシン水溶液の計測において製作した構造が持つ検出限界の評価に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では神経プローブの先端に搭載可能なSPRセンサを実現するために、回折格子を用いることで平面上での伝搬型SPRカップリングを行い、伝搬先に設置した半導体接合でSPRの検出を行う構造の原理実証を行った。提案構造は導波路から伝搬型SPRに入射光をカップリングする複合的な構造を持っており、一気通貫に試作する場合は研究が難航すると予測できるため、2022年度はまずSPRを励起し検出する金回折格子部の原理検証として、1インチガラスウエハ上に金回折格子を形成し、その上部に光検出部を設けた構造を設計・試作し、実際にSPRを検出可能か検証を行った。原理検証用の構造はフッ化水素酸の蒸気によるエッチングでガラスウエハ上に回折格子を形成し、その上にシリコンを接合してから金とアルミニウムを蒸着して製作した。製作した金回折格子上でSPRが発生するか検証するために金が蒸着されている面から光を照射し、その反射光強度でSPRによる光吸収を入射角毎に計測した。その結果、光の波長に応じて反射率のディップの角度位置が系統的にシフトし、理論から求めた角度と一致したため、SPRの発生が確かめられた。最後に発生したSPRを設置したウエハ側面で検出できるか検証するために、背面から光を入射し、センサが出力する電流値を入射角毎に計測した。その結果、電流値を入力した光強度で割った値である応答性は回折次数m=-2のモードにおいて反射率計測による入射角位置と同じ角度でピークを取り、理論式とも合致することがわかった。以上の結果より、提案した原理によるセンサが背面からの光照射によってSPRを電気信号として計測可能であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究のSPRセンサは主に神経ペプチドの定量をターゲットとしており、今後はこの神経ペプチドを計測した場合の検出限界の評価を中心に行っていく予定である。2022年度に行った原理検証によって、提案構造上の金回折格子で発生した伝搬型SPRを伝搬先に設置した半導体接合で検出できることがわかったため、引き続き提案構造を用いて神経ペプチドの計測を行う。計測する神経ペプチドは本研究がスコープとして定めている社会的相互作用に関連の深いオキシトシンを対象とする。具体的な検出限界の評価方法としてはオキシトシン水溶液の濃度を純水希釈により変化させ、その濃度に対する屈折率変化を計測し、センサ応答に変化が見られなくなる濃度を検出限界とする方法をとる。この評価によって目標とする検出限界に到達していない場合については、励起光の波長を短くして屈折率の変化を検知する体積を縮小する方向にセンサの再設計を行う。しかしながら、本研究の構造では近赤外領域においては反射・電流計測で理論通りのピーク位置が得られたが、波長を短くして可視光で計測した場合は干渉に起因する電流応答が大部分を占め、SPRに起因する応答が確認できないという現象も確認されており、単純に波長を短くするだけでは問題は解決できない可能性がある。波長を短くすることは有効体積を減少させる効果も持つが、同時にSPRが伝搬する長さも制限してしまうため、この干渉成分が大きくなった原因としてSPRが検出面に到達していない可能性が挙げられる。そこで、必要な検出限界が得られない場合は発生したSPRが検出面に到達するか確認するために、伝搬型SPRから生じる散乱光の空間分布を計測し、評価を行う。この計測のために、冷却型CMOSカメラを購入し、顕微観察システムを構築する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後の研究の推進方策でも述べた通り、本研究の構造では近赤外領域においては反射・電流計測で理論通りのピーク位置が得られたが、波長を短くして可視光で計測した場合は干渉に起因する電流応答が大部分を占め、SPRに起因する応答が確認できないという現象が確認され、その原因究明のため研究プランに変更が生じたことが、次年度使用額が発生した主な原因である。次年度使用額については発生したSPRが検出面に到達しているか確認するために、伝搬型SPRから生じる散乱光の空間分布を計測し、評価を行う系の構築に使用する予定である。
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