高温物体を水などの冷却材で冷却する際,冷却初期段階において,高温物体が蒸気膜に覆われる膜沸騰が生じる.膜沸騰状態においては,固液接触(高温物体と冷却水の接触)が制限されることで,熱伝達率が非常に低い.その後,冷却の進行に伴い,固液接触が生じ,核沸騰が生じることで熱伝達率が上昇し,急激に冷却が進行する.この膜沸騰から核沸騰への遷移をクエンチ現象という.このクエンチ現象を早期に起こすことが急速冷却の実現に向けて大きな課題であった.これまでに,クエンチ現象を促進する様々な手法(冷却水の特性や高温面の表面性状等)が検討されてきた.本研究では,クエンチ現象を促進する高温面側の因子を変更することでクエンチ現象の発生からその促進メカニズムについて実験的に検討を行った. 高温物体として,銅ブロックを,冷却材として液体窒素を用いて,冷却実験を実施した.その際,銅ブロック表面に電解析出法を用いて作製した金属多孔質体を装着し,高温体の急速冷却を行った.金属多孔質体を装着することで,装着しない場合に比べて,冷却時間を約十分の一にすることに成功した. 電解析出の際に,電流を印加する時間を変化させることで,多孔質構造が変化し,冷却時間が変化することが明らかになった.この原因を調査すると多孔質構造の吸水性能の違いが冷却速度に影響を与えることが明らかになった.これは,膜沸騰条件下において,固液接触が生じた際に吸水性能が高いほど,高温表面に液を供給することができるためと考えられる. 実験データより,冷却時の壁面温度および熱流束の変化を表す沸騰曲線を調査すると,クエンチ現象が2段階生じていることが明らかになった,1段階目は多孔質体表面で,2段階目は多孔質体の底面(銅ブロック表面)で段階的にクエンチ現象が生じていると考えられる.
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