シリコン系セラミクスの真空中における超潤滑実現に向けて、前年度に引き続き研究を実施した。昨年度に得られたシミュレーション結果に基づき、共同研究者と実験を行った。水素含有量の異なる水素化アモルファスカーボンを相手材として摩擦試験を行ったところ、水素含有量20 at.%では0.7程度の高い摩擦係数となる一方、水素含有量を36 at.%まで増やすことで超潤滑状態を得ることができた。摩擦試験後のシリコン系セラミクス表面をX線光電子分光法により解析したところ、数ナノnm厚の炭素系膜が存在することが分かった。ラマン分光分析においても同様の結果が得られた。これは、摩擦下において水素化アモルファスカーボンからセラミクス表面に移着が起こっていることを示しており、アモルファスカーボン同士の摩擦状態の生成が超潤滑に寄与していることが明らかとなった。シミュレーションでは、実際のセラミクス表面が酸化膜により覆われている可能性を考慮し、水素化アモルファスカーボンとシリカ間の摩擦シミュレーションを実施した。シリカは窒化ケイ素に比べせん断応力が小さいことからシリカ層内部でのせん断が起こりやすく、水素化アモルファスカーボン表面のシリカの摩耗が起こる。しかし、水素含有量を増加させることで、窒化ケイ素と同様の移着膜形成を誘起できることがわかった。以上より、シミュレーション結果と実験結果がよく一致しており、水素含有量の変化による摩擦制御の実現可能性がシミュレーション・実験により示された。また、得られた知見は他の材料、例えば炭化ケイ素や酸化鉄へ適用可能であることが予備的実験より示された。本研究の結果は、ACS Applied Materials & Interfacesに掲載された。また、International Tribology Conference Fukuoka 2023にて招待講演を行った。
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