化学結合に由来する吸収ピークが現れる電磁波領域である中赤外領域において,可用性の高い小型分光器を実現するため,本研究では,プラズモニック構造をもつボロメータ (赤外線を熱,抵抗変化と変換して電気的に測定する受光器) の定温制御により,常温・常圧で高速に動作するワンチップ中赤外分光器の実現可能性を検証することを目的とした.本研究により,高度に集積したボロメータ間の相互の熱的な干渉 (クロストーク) が排除できるようになれば,現代の発展した半導体技術に親和性の高い,かつ集積度の高い撮像素子アレイを実現でき,可視光では得られない情報を用いたイメージング技術によって高度情報化社会のセンシングを力強く支える技術となる. シリコンを用いて作製した熱抵抗素子アレイによって隣接するボロメータの熱的なクロストークを評価した結果,距離に応じて減衰するクロストークが観測されたが,外部から電気エネルギーにより発熱を適切に補うことで,素子を一定温度に保ち,隣接素子からのクロストークを相殺することができることが確認された.また,マイクロコンピュータによってリアルタイムで素子の定温制御が可能なシステムを構築できた. そのうえで,中赤外光への応答性の異なる,ナノ金属構造 (プラズモニック構造) をもつボロメータを実際に設計・製作した.デバイスの製作プロセスを構築し,隣接素子間で光の吸収性の異なる構造をもつようなボロメータアレイの光応答を確認した.プロセス条件が不完全であったため素子の電気的特性が理想的でなく,前述の定温制御システムへ直接適用するには至らなかったものの,前述のシステムの一部を変更することで対応できると考えられる. 以上,プラズモニックボロメータアレイの構築と,隣接素子間の熱的クロストーク解消が実証でき,不可視光領域を可視化する小型デバイスの実現に資する知見が得られた.
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