量子イルミネーションとは,エンタングルメントを持つ二つの光の利用により,目標の存在を確かめる量子計測技術の一つである. 本研究の初年度では,擬似ベル状態を用いた量子イルミネーションの量子測定器について,物理的な構成方法の検討とその性能解析を行った.特に,ビームスプリッタと光子計数器を用いた測定器の簡易構成を提案し,誤り率規準に基づき性能評価を行った.その結果,減衰環境下では,同手法による性能が2モードスクィズド真空状態に量子最適測定を施した場合を凌駕しうることを明らかにした. 最終年度では,上記の簡易構成と誤り率の評価規準を踏まえ,より現実的かつ経済的な素子を用いて測定器の構成を検討した.その結果,光子計数器の代わりに,光子数分解能を必要とせず光の有無のみを識別するオンオフ検出器を用いても,ほぼ同等の性能が得られることを明らかにした.また,誤り率規準だけでなく,量子Chernoff限界規準に基づいた性能評価も行った.新たな数学的手法を開発し,それを用いて解析した結果,先行研究で示された2モードスクィズド真空状態が常に最適であるという結論に反し,擬似ベル状態のほうが優れる場合があることを明らかにした.この二つの結論の不整合は,前者ではガウス状態のクラスに限定して考察したのに対して,後者では非ガウス状態を用いたためである. これらの結果から,擬似ベル状態をはじめとする非ガウス状態を用いた量子技術では,より現実的かつ経済的な素子で測定器を構成する可能性が示唆され,非ガウス状態の生成に関する研究の加速を促すことが期待される.
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