サニテーションシステムの構築において、「ヒトの健康」及び「生態系健全度」をシステム全体の持続可能性評価に組み込む必要がある。しかし、既存の評価手法であるライフサイクルアセスメントでは、サニテーションシステムが重要な役割を担う水系感染症のリスク低減効果や生物多様性への寄与が評価の対象に含まれていない。本研究では、サニテーションシステムがヒトの健康及び生態系健全度にもたらす正負の影響を指標化し、モデル化することにより両方を達成可能なシステムを設計するための枠組みの構築を試みた。 水系感染症の疾病負荷を定式化するための第二段階目として、資源回収型のサニテーションシステムにおける水系感染症リスク低減効果に関するシステマティックレビューを実施した。分散型サニテーションシステムに適用される石灰処理について、水系感染症を引き起こすウイルスの不活化率を調査した。論文から抽出した消毒条件に関するプロセスデータ及び対応する病原体対数不活化率のデータに機械学習モデルを適用することで、任意の条件におけるウイルス不活化率の推定が可能になり、ウイルス感染症がもたらす疾病負荷を定式化することが可能になった。以上の成果を国際学術誌で発表した。 ウイルスを死滅させるための消毒により、一次生産を担う藻類が死滅する例に見られるように、サニテーションシステムにおいてはヒト健康と生態系健全度の間にトレードオフが発生する場面がある。このような状況で最適解を見出すために、本研究では数理最適化の手法を採用した。その足がかりとして、下水疫学調査の計画手法の開発に取り組んだ。この成果を国際学会で発表した。
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