鋼橋溶接継手に生じる疲労き裂は,車両通行に起因して発生する繰返し応力により進展し,急激に鋼橋の耐力を低下させる.この疲労き裂の進展を効率的かつ合理的に遅延するために,金属ピン・ハンマー打撃により鋼材表面に塑性流動を生じさせ,打撃部周辺に疲労に有利な圧縮残留応力を導入可能なピーニング・HFMI処理による表面き裂の閉口処理が検討されてきた.一方,閉口されたき裂の再開口挙動は,従来のき裂進展とは様相が異なる閉口部の連続的に開口する挙動を示す.このため,その挙動を従来のき裂進展解析,すなわち,線形破壊力学の枠組みにより再現可能であることが明確にできれば,非常に有効であると考えている. 本年度は,昨年度実施することができなかった鋼橋溶接継手部を模した小型試験体の疲労試験を実施し,当初の予定とは異なる箇所からの疲労き裂の発生となったが,そのまま流用することとし,ピーニング処理を用いたき裂閉口処理によりき裂表面を閉口した.その際の処理部近傍への導入圧縮ひずみを計測するとともに,閉口したき裂側面の詳細な電子顕微鏡観察を実施した.その結果,き裂閉口処理により処理面から約1.5mm深さまでき裂が閉口されたことを確認した上で,閉口き裂周辺の金属組織観察結果より,き裂の閉口は,閉口処理による鋼材表面への打撃に起因した金属組織のき裂面に沿った塑性流動によりき裂面が互いに隙間なく閉口されることによりに生じることを明らかにした. 研究期間終了後も,今年度実施に至らなかったき裂面に導入される残留応力の正確な推定のためのピーニング処理の数値シミュレーションの実施およびピーニング処理によりき裂面に導入される圧縮残留応力および塑性流動をも考慮可能な3次元き裂進展解析手法の構築については,引続き研究を実施している.
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