研究課題/領域番号 |
22K20446
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小椋 紀彦 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (80902915)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 弾性波トモグラフィ / 社会インフラ / コンクリート構造物 / 維持管理 / 健全性評価 |
研究実績の概要 |
国内外において社会インフラの経年劣化、激甚化する自然災害による構造物の損傷等、構造物の機能低下による社会基盤の大幅な低下がリスクとなっている。コンクリート構造物内部のひび割れや施工不良に伴う空洞の劣化位置を計測する調査方法として、弾性波トモグラフィ法がある。しかしながら、劣化位置の特定はできるものの、損傷の寸法や範囲を定量的に評価するまでには至っていない。本研究の目的は、定量的な健全性評価基準を構築することである。今年度は研究計画に準じて、シミュレーションの実施と模擬供試体を作製し検証を行った。 シミュレーションでは、2次元の弾性波動方程式について近似値を計算するソフトを使用し、1.5×1.5mのモデルサイズに、①ひび割れが発生したケース、②内部に空洞があるケースの2種類の損傷が発生した場合での伝搬速度の低下やその影響を可視化および数値化した。これらで得られた結果の妥当性を検証するため、同じ大きさの供試体をコンクリートで製作した。ひび割れの損傷は鉄板で模擬し、硬化後に撤去して再現した。空洞は発泡スチロールブロック(0.4×0.4×0.4mmと0.4×0.4×0.4mの大小2つ)で模擬することにした。 ②の空洞モデルの模擬供試体の測定した結果から、0.4m角の大きな立方体は検出することができたが、小さな空隙(0.4×0.4×0.1m)を検出することはできなかった。またこの空隙を検出する際、空洞の位置に対応する領域の伝搬速度は概ね4000-4500m/sの範囲であり、これは通常健全なコンクリートと評価される伝搬速度の範囲(3500m/s以上)に相当するものであった。つまり、このような欠陥を特定するには、従来の伝搬速度の基準値を適用するだけでなく、対象となる構造物の例えば輪郭部の伝搬速度と比較して、低下した領域を探すことやセンサ配置が重要であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は研究計画に準じて、1年目はシミュレーションの実施と模擬供試体を作製し検証を行うこととしていたが、実橋で計測を実施できる機会が得られたため、供試体+実橋でのデータが蓄えられた。そのため、成果として海外論文にも投稿できた。2年目は、さらにこれらのデータ解析に注力を注ぐ。
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今後の研究の推進方策 |
計測から得られた弾性波速度の分布図と、シミュレーションから予め予測された弾性波速度とを比較し、シミュレーションによる予測誤差、要因を特定する。その上でもう一度シミュレーションで構造物の形状と損傷の寸法を変化させ、弾性波速度の低下を算出し再現する。ここで、弾性波速度の低下を予測誤差含めた新規の評価基準で設定する。つまり、新規の評価基準では、対象構造物の寸法,損傷の種類や寸法,弾性波の伝搬経路の3つの要因から成り立つ。弾性波速度分布のコンター図に、新規の評価基準での評価を当てはめ、弾性波の低速度領域=損傷範囲と一致させることを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は特にデータ収集を中心に実施し、供試体制作や機器の購入に使用した。そのため、当初予定していた学会への参加は実施できていない。次年度は、データの妥当性確認のために、2次元ソフトから3次元ソフトを購入してでの検討を試みるとともに、これまで得られた結果を、論文や学会へ発表する予定である。
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