研究課題/領域番号 |
22K20455
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
大泉 伝 気象庁気象研究所, 気象予報研究部, 研究官 (00649569)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 洪水予測 / 災害リスク / 大アンサンブル |
研究実績の概要 |
顕著な気象現象の事前予測が難しいことはよく知られている。気象学の分野においては多数のアンサンブルメンバーによる大アンサンブル予報の有効性が報告されている。また洪水予測の分野においても大アンサンブル予報の有効性は認識されつつある。 本研究では前年度までに気象庁の流域雨量指数と1000メンバーのアンサンブル予報を用いた洪水のアンサンブル予測システムの開発に取り組んできた。開発したシステムを用いて2020年7月に球磨川流域で発生した洪水事例で検証を行い、1000メンバーの気象予報データがあれば12時間前に球磨川で洪水予測できることを明らかにした。一方で小規模河川では大規模河川ほど洪水のリスクが予測できていなかった。そこで本研究では2020年7月4日の球磨川での洪水事例で球磨川に接続する36の支流を対象に1000メンバーの気象予報データを用いた洪水予測の予測精度を調べた。 球磨川の支流を流域面積で分類すると20km2以下が12河川、40km2以下が17河川、100km2以下が6河川、100km2以上は川辺川の553km2のみであった。20km2以下の河川では1000メンバーの気象予報データを用いることで洪水のピークの時間帯に洪水のリスクが高まる傾向を示した。40km2以上の河川についても同様の傾向が見られた。しかし洪水の規模については十分に予測できなかった。流域面積が一桁大きい川場川では1000メンバーが警報級の洪水が60%の確率でピーク時に起こることを12時間前に予測した。 本研究では小規模河川においても1000メンバーの気象予報データを用いることで洪水の発生リスクを予測できる可能性を示した。一方で洪水の規模については十分な予測ができない事も明らかになった。この結果を検証するためには事例や流域面積のサンプルを増やして大アンサンブルの有効性を検証する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1000メンバーのアンサンブル予報を用いた洪水予測については論文としてまとまり、投稿準備が整っている。また当初予定していなかったタイムラグアンサンブルを用いた結果も良好であり、少数アンサンブルでも良い結果が得られる可能性が示されている。
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今後の研究の推進方策 |
1000メンバーのアンサンブル予報を用いた浸水の予測実験を行う。浸水のリスクと被害推定のデータを解析し、当初の目的である浸水リスクの推定手法を確立する。 タイムラグアンサンブルにも着目し、少数メンバーの予報を工夫して使うことで洪水のリスク予報の精度を高められないか検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は論文の英文校正など結果につながる支出が増えた。一方で研究会や学会のオンライン化が進んだことにより旅費の支出が申請時の計画よりも少なくなり、次年度使用額が発生した。 次年度は論文の掲載料や新しい論文の英文校正費などに使用する予定である。
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