昨今,木質構造を用いた建築物の高層化の普及に向けて様々な研究が行われている.木質構造部材においては鋼板挿入型ドリフトピン接合がよく採用されているが,その荷重-変形曲線における履歴形状はスリップ型となり,地震時の履歴吸収エネルギーに乏しい.そこで,ドリフトピンをスペーサに通し,周囲の木部への支圧応力を分散することで木部へのめり込みを少なくすると同時に,ドリフトピン周囲に空洞を設けドリフトピンのみを曲げ降伏させることで,ドリフトピンによる履歴吸収エネルギーを獲得する接合方法を考案した.本研究では,スペーサ付き鋼板挿入型ドリフトピン接合におけるエネルギー吸収性能の把握を目的として,静的加力試験を実施した.また,構造解析を行い,試験結果と比較することで適合性の良い構造解析モデルの構築を図った.その結果,以下の知見を得た. (1) スペーサを用いたことにより,母材厚105mmかつφ=12mmのドリフトピン及びボルト接合では履歴性状が改善されたが,変形性能は低下した. (2) 一方でφ=16mmのドリフトピンを使用した試験体では,φ=12mmのドリフトピン及びボルト接合の試験体と比較して大きな改善は見られなかった. (3) 構造解析モデルにおいて,Sawata/Yasumura式によって木材の支圧耐力を評価した場合,大径のスペーサを用いた場合においても繰返し履歴を含め試験結果と解析結果が概ね一致し,良好な適合性が得られた. 以上の様に,ドリフトピンやスペーサが大径になると本発案技術の効果が低下するが,ドリフトピン径がφ=12㎜以下では,効果的であることが示された. また,ドリフトピン接合に対する構造解析モデルにおける支圧バネの支圧強度式としてSawata/Yasumura式を用いることで,あらゆるケースで良好な適合性・再現性が得られたことは,今後,ドリフトピン接合部の解析的検討をする上で有用な成果である.
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