本研究は、地質構造・社会情勢との関係から宇部炭田における炭鉱住宅地形成過程と閉山後の現在に至るまでの土地利用変化を明らかにすることを目的としている。 最終年度では、初年度に引き続き登記簿謄本・旧土地台帳の取得と鉱山監督局等が発行している鉱区一覧により鉱業権者のリスト化を行った。そして、それらの照合作業を行うことで、炭鉱住宅地と推定された箇所における鉱業権者による土地取得・放棄の推移を地図上に整理し、それらと地質構造・社会情勢との関係を分析した。 その結果、研究期間全体を通じて宇部炭田の炭鉱住宅地における土地取得・放棄動向について各時代区分毎に以下のような特徴が明らかとなった。(1)1887-1913:宇部炭田全域で個人の鉱業権者による土地取得が進行。(2)1914-1938:大局的に海岸付近へ土地取得の重心が移り、厚東川以西では企業としての土地取得が進行。(3)1939-1945:宇部興産設立に伴って、海岸付近では宇部興産による土地所有が進み、厚東川以西の北側ではその他企業による土地所有が、さらにその北側では個人による土地所有が行われるという土地所有分布の階層性が生じた。(4)1946-1954:分布の階層性が維持されつつ、増産体制等に伴い土地所有の郊外化が進行。(5)1955-1967:炭鉱業衰退とともに土地所有の重心が相対的に海岸部へ移行。(6)1968-:ほとんどの鉱業権者が土地放棄を行い、部分的に宇部興産による土地所有のみ継続。 以上の研究成果は登記簿謄本・旧土地台帳の整理・照合作業に予想よりも大幅な時間を要したため、鉱業権者による土地取得・放棄の動向に絞ったものとなっている。今後は鉱業権者による土地放棄後の具体的な土地利用変化を踏まえた分析が必要である。
|