研究課題/領域番号 |
22K20490
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
岡崎 めぐみ 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 産総研特別研究員 (50967247)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化ニッケルナノ粒子 / 水の光酸化反応 / 電子の化学ポテンシャル / ルテニウム錯体 / pH緩衝剤 / ホウ酸 |
研究実績の概要 |
酸化チタン粉末上に修飾した酸化ニッケルナノ粒子に対し、複数条件下にて電子の化学ポテンシャル測定を行った。その結果、酸化ニッケルナノ粒子が有する水の酸化反応に対する電子の化学ポテンシャルは、共存する化学種によって大きく異なることが明らかとなった。具体的な見積もり手法としては、pH緩衝剤としてホウ酸・リン酸・さらにはテトラフルオロシリコンナトリウム錯体を用い、異なる配位子を有する複数のRu(II)錯体光増感剤による水の光酸化反応を行った。その結果、リン酸・テトラフルオロシリコンナトリウム錯体水溶液では酸素生成が確認されなかったpH条件(pH~7)において、ホウ酸水溶液を用いると触媒的に酸素が生成することが確認された。このことから、ホウ酸水溶液では電子の化学ポテンシャルがより負側に位置していることが考えられる。つまり、酸化ニッケルナノ粒子は、周囲の環境によってその反応性が敏感に変化することが明らかとなった。一方、酸化コバルトや酸化イリジウム、酸化ルテニウムでは、pH緩衝剤の違いによる多少の反応性の変化は認められたものの、酸化ニッケルで確認されたほどの大きな差は確認されなかった。酸化ニッケルは電極触媒において、電解質の化学種によって過電圧や電流応答が変化することが過去に報告されているため、本研究にて確認された現象もそれに類するものであると推察される。したがって本研究では、水溶液中に懸濁しているナノ粒子に対し、電極触媒で立証されている現象を初めて観測できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査では、酸化ニッケルナノ粒子のみpH緩衝剤によって反応性が大きく変化するという予想外の結果が得られたため、目標としていた初年度における論文執筆の着手までには至らなかった。一方、不均一系触媒を実反応系と同様の条件下で用いながらそれ自身の特性を調査できたことから、想定以上にナノ粒子の特性の理解が深めることができたと考えている。以上の理由から、(2)概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、複数の前駆体を用いて酸化ニッケルナノ粒子を酸化チタン粉末上に担持させることで、反応性の変化が生じるかどうかを確認する。具体的には、ニッケル水酸化物ナノシートや、塩化ニッケル等の無機塩、ニッケル錯体等を想定している。さらに、酸化ニッケルのバルク体を購入もしくは合成し、水の酸化反応に対してバルク体が有する電子の化学ポテンシャルを同時に推定する。これにより、担体上に担持されたナノ粒子とのポテンシャルや反応性の比較を行い、ナノ粒子としての特性を明らかとする。 次に、反応中および反応前後の酸化ニッケルナノ粒子のキャラクタリゼーションを行い、ニッケル種の酸化状態や化学種に変化が生じているかを確認する。この調査から、共存イオン種による反応性や電子の化学ポテンシャルの違いが何に起因しているのかを明らかにする。反応中のin-situ測定はその手法の確立も含め今後検討する。 最後に、金属酸化物ナノ粒子に含まれる金属種の酸化状態を意図的に変化させた試料を調製し、それらの電子の化学ポテンシャルの定量的な見積もりを行う。それにより、各種金属酸化物ナノ粒子が有する水の酸化反応に対する駆動力を見積もり、酸素生成反応に対して最適な電子の化学ポテンシャルを有する条件を見出す。この検討はニッケルに限らず幅広い金属種に対して行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は実験データの蓄積に注力していたため、学会発表や論文執筆の進捗があまり進まなかったことから、予定していた額以下の使用となった。次年度には国際学会での発表や、論文執筆を進めるための外部施設での研究を行うため、予定していた額以上に必要となることが予想される。その不足分を今年度の未使用額から使用する予定である。
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