酸化チタン粉末上に修飾した酸化ニッケルナノ粒子に対し、水の酸化反応に関与する電子の化学ポテンシャル(以降「反応ポテンシャル」とする)を複数条件下において見積もった。その結果、酸化ニッケルナノ粒子が有する反応ポテンシャルは、共存するpH緩衝剤の化学種によって大きく異なることが明らかとなった。 pH緩衝剤としてホウ酸・リン酸・さらにはテトラフルオロシリコンナトリウム錯体を用い、異なる配位子を有する複数のRu(II)錯体光増感剤による水の光酸化反応を行った。その結果、pH 7の条件では、リン酸・テトラフルオロシリコンナトリウム錯体水溶液では酸素生成が確認されなかった一方、ホウ酸水溶液を用いると触媒的に酸素が生成した。このことから、ホウ酸水溶液では酸化ニッケルナノ粒子中の酸素生成反応に関与する電子の化学ポテンシャルが高い、つまりは反応ポテンシャルがより高いことが考えられる。具体的に反応ポテンシャルを見積もったところ、すなわち、酸化ニッケルナノ粒子は、周囲の環境によってその反応性が敏感に変化することが明らかとなった。反応ポテンシャルと水の酸化電位の差、すなわち水の酸化反応に対する擬過電圧を計算すると、リン酸水溶液中では0.51-0.52V、ホウ酸水溶液では0.35-0.38Vとなった。 一方、酸化コバルトや酸化イリジウム、酸化ルテニウムでは、pH緩衝剤の違いによる多少の反応性の変化は認められたものの、酸化ニッケルで確認されたほどの大きな差は確認されなかった。酸化ニッケルは電極触媒において、電解質の化学種によって過電圧や電流応答が変化することが過去に報告されているため、本研究にて確認された現象もそれに類するものであると推察される。したがって本研究では、水溶液中に懸濁しているナノ粒子に対し、電極触媒で立証されている現象を初めて観測できた。
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