研究課題/領域番号 |
22K20493
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
高野 恵介 信州大学, 学術研究院理学系, 助教 (70583102)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 周波数変換 / 時間変化媒質 / 時間壁 |
研究実績の概要 |
時間的な電磁波の分散関係変化である時間壁を利用することで、電磁波の周波数変換が可能である。その変換効率は電磁波強度によらないため,強い光源が得にくいテラヘルツ周波数領域の電磁波(テラヘルツ波)の周波数変換にも適する。これまでに半導体GaAs導波路を伝搬するテラヘルツ波に対して20%程度の周波数変換後テラヘルツ波の出力効率が示されている。導波路中にテラヘルツ波が存在する間に,半導体導波路上面を光励起することで,境界条件変化に伴う導波路モード変化を誘起する。光励起前後で,導波路中電磁波は異なる分散関係に従って導波する必要があるために周波数の変化が生じる。理論的に示される同構造での数十%以上の変換効率からの出力低下は,光励起部下をテラヘルツ波が導波する際の導電損であることが明らかになった。導電損を低減するためには,光励起部の電気伝導度の増大が必要と考えられる。そのために,導波路の境界条件を変化させるために必要な光励起面積を減少させる,または同じ光強度で生成される伝導電子数を増大させることが有効と考えられる。本研究では、そのような構造として,時間壁の生成部に自己補対構造に近い形状を持つ2次元金属チェッカーボードパターンを持つ導波路構造を提案する。 GaAs導波路上にAu/Tiからなるチェッカーボード構造をフォトリソグラフィによって作製した。光ポンプーテラヘルツプローブ光学系を用いて作製した試料中でのテラヘルツ波の周波数変換実験を行った。しかし,パターンなしの場合に比べて周波数変換後のテラヘルツ波出力効率は向上せず,むしろ減少する結果となった。その他のパラメータについても測定を実施し,効率向上の可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GaAs導波路上にAu/Tiからなるチェッカーボード構造をフォトリソグラフィによって作製した。光ポンプーテラヘルツプローブ光学系を用いて作製した試料中でのテラヘルツ波の周波数変換実験を行った。導波路表面の光励起による境界条件の変化によって,導波路構造から予想される周波数へ,テラヘルツ波の周波数変換が生じた。しかし,測定したチェッカーボードパターン付き導波路では,パターンなしの場合に比べて変換効率の向上が見られず,むしろ減少することが分かった。また,試料作製に用いたGaAsウェハでは,励起電子のキャリア寿命が長く,実験で用いたレーザーのパルス繰り返し周波数よりも長く電動電子が残留することがわかった。このために取り出し効率のさらなる減少が生じていることが分かった。 パターン付与の効果を明らかにするためには,光励起キャリア寿命の評価を経た適切なウェハを試料作製に使用する必要がある。光ポンプ-テラヘルツプローブ分光法によってキャリア寿命評価を実施したウェハを今後の試料作製に用いる。適切なウェハの選定に時間を要していることから,やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
作製した種々のパターンでのテラヘルツ波周波数変換実験を実施する。また,キャリア寿命評価を行ったウェハを用いて試料試作を行う。新たな導波路構造についても試作を進める。 2023年度中に,誘電体導波路と半導体導波路を積層した構造の作製方法の検討を行った。サファイアとGaAsウェハを接合した構造に対して,薄化,裏面金属成膜,導波路形状切り出しなどの加工を施し,テラヘルツ波周波数変換用の導波路構造を作製する。主に2層の各厚さをパラメータとして,電磁場シミュレーションと実験から変換周波数範囲の拡大や効率向上を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の実験で,使用したGaAsウェハの光励起キャリアの寿命が長く,実験で用いたレーザーパルス繰り返し周波数よりも長い時間GaAs中に励起キャリアが残留することが分かった。残留キャリアは,導波路内を伝搬するテラヘルツ波を減衰させるため,時間壁による周波数変換効率の測定を難しくする。GaAsの光励起キャリア寿命評価のための光ポンプ-テラヘルツプローブ光学系を構築し測定したところ,同等仕様で販売されているウェハであっても寿命が異なる場合があると分かった。このような実験に使用するウェハの選定のための事前測定等を必要としたため,予算使用を次年度に持ち越した。
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