腫瘍血管におけるナノ粒子の動的な噴出現象(nano-eruption)は、従来想定されていた静的な孔からの漏出とは異なる新たな輸送経路として、抗がんナノ薬剤の腫瘍への送達効率を向上させることが期待されている。今回我々は、まずこれまでnano-eruptionを促進すると報告されているTGF-β阻害薬、クロロキンの前投薬が、抗がんナノ薬剤の腫瘍への集積量を増加させるのか複数のモデル・薬剤を用いて検証したが、有意な変化を認めなかった。この結果により、これまでの報告にあるnano-eruptionの頻度の増加(2倍)や範囲の増加(8倍)を超える規模での本現象の促進を、今後目指す必要があることが明らかになった。次に、一部のnano-eruptionは白血球の血管外遊走に伴い生じると言う報告を踏まえ、血中の白血球数を増加させることが知られている顆粒球コロニー形成刺激因子製剤(G-CSF)を投与した腫瘍モデルマウスを用いて、本現象の頻度が変化するのか検証を行った。本実験ではG-CSF投与群とコントロール群(PBS投与群)との間に有意差を認めなかったが、この結果がG-CSFがnano-eruptionの頻度を増加させない可能性を示唆する半面、今回の撮影可能時間がマウスの呼吸性体動によって1時間と極めて短いものであったことも影響している恐れがあり、より安定的撮影環境の構築が急務であると考えられた。最後に、当方の予備実験で胸腺由来細胞の静脈投与によってnano-eruptionの頻度の増加を認めたことを踏まえ、3.3×10^6個および2.5×10^7個の胸腺由来細胞を投与しての抗がんナノ薬剤の腫瘍集積量の変化を測定したが、3.3×10^6個では有意差なく、2.5×10^7個では増加傾向はあるものの3匹中2匹のマウスの死亡を認め、同細胞投与経路の見直しが必要なことが明らかとなった。
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