研究課題/領域番号 |
22K20507
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
神田 雄大 京都大学, 医生物学研究所, 助教 (50964649)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | ウイルスベクター / アクセサリータンパク質 / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
アクセサリータンパク質(X)がボルナ病ウイルスベクター(REVec)の細胞内動態に与える影響の評価を行った。まず、通常のREVecとX遺伝子を欠損させたREVec(ΔX/REVec)をVero細胞に感染させ、IFA法で主要なウイルスタンパク質の細胞内局在を観察したところ、REVec感染細胞ではウイルスタンパク質は細胞内に均一に局在していたのに対し、ΔX/REVec感染細胞ではウイルスタンパク質は核内のみに局在していた。次に、薬剤依存性にXを発現するVero 細胞(Vero-X)を作製し、ΔX/REVecを感染させた。薬剤を添加しなければウイルスタンパク質は核内のみに局在したのに対し、薬剤を添加してXの発現を誘導すると、細胞質でもウイルスタンパク質の局在が観察できた。これらの結果から、XがREVecの核外輸送に関与していることが示唆された。 REVecは核内でウイルスRNAの転写複製を行う。そこで、Xはウイルスタンパク質の細胞内局在を制御することで、ウイルスRNAの転写複製にも影響するのではないかと推測し、Xの発現量がウイルスRNAの合成量に与える影響を検討した。ΔX/REVecを感染させたVero-X細胞を様々な濃度の薬剤を添加した状態で継続して培養し、RT-qPCR法でウイルスRNAの発現量を定量した結果、ウイルスRNAの発現量は中程度の薬剤を添加した際に最大化した。しかしながら、通常のREVecでは、ウイルスRNAの発現量が時間と共に増加していったのに対し、ΔX/REVecでは、中程度の薬剤を添加した際においても、ウイルスRNAの発現量は一定の発現量を維持しているだけであった。これらの結果から、REVecのウイルスRNAの転写複製には、緻密に制御されたXの発現が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は実験計画の半分まで進めることができたため、研究はおおむね順調に進展していると考えている。一方で、様々な発現量でXを外因性に供与してもREVecのウイルスRNAの発現効率を大幅に向上させることはできず、これまでに得られた結果をREVecの応用に用いることは現実的ではないと考えられたため、今後の実験計画については見直しが必要である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から新たに生じた疑問は、「ΔX/REVecではウイルスタンパク質が核内に限局するにもかかわらず、なぜ通常のREVecよりもウイルスRNAの発現効率が低下するのか?」という点である。ボルナ病ウイルスが宿主クロマチンと複雑に相互作用しながら、細胞周期を通じて核内で持続感染することを考慮すると、XがクロマチンとウイルスRNAの相互作用に必須の役割を果たしていることが推測される。今後は、ボルナ病ウイルスの感染サイクルにおけるXの機能に関して研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費が当初の予定より低く抑えられたため。また、参加を予定していた学会への参加を見送り、旅費が不要であったため。 翌年度は当初の計画に無かった実験に必要な物品の購入、および学会への参加を検討しているため、その予算として使用する予定である。
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