中分子医薬品は標的特異性の高さなどから次世代創薬として注目されているが、安定性が低いため、より有効な薬物送達システムの開発が求められている。本研究では、生体適合性の高いエラスチン由来の短鎖型ペプチド(Short-ELP)を利用した、次世代創薬に対応可能なDDS担体の開発を目指す。本研究は2年計画であり、初年度では、エラスチンタンパク質がもつ反復配列を模倣した温度応答性の自己集合能を有するShort-ELPをFmoc固相合成法により合成した。我々は以前にShort-ELPが水中で温度応答性の自己集合能を有することを明らかにしているが、今回、PBS溶媒において合成したShort-ELPの自己集合能の評価を行ったところ、濃度依存的な自己集合能を示し、また従来の5分の1程度の濃度で同等の自己集合能を有することが確認された。次に、DDS担体としての応用が期待できる薬物の分子量サイズを調べる目的で、合成したShort-ELPの自己集合特性を利用した薬物包含および徐放試験を実施した。その結果、Short-ELPは一般的な低分子医薬品だけでなく、その3倍程度の分子量の薬物まで包含することが可能であり、また長期間にわたり徐放できることが明らかとなった。 令和5年度では、初年度で検討した薬物よりもさらに大きな分子量のモデル薬物を数種類用いて薬物包含・徐放試験を行った。その結果、担体であるShort-ELPよりも大きな分子量であるモデル薬物をも包含できることが明らかとなった。さらに、三次元培養口腔モデルを用いたShort-ELPの口腔粘膜透過試験を実施し、初回通過効果を回避できる投与方法として知られる口腔粘膜吸収が適用可能かどうかを検討したところ、Short-ELPが口腔粘膜を透過した可能性が示唆された。
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