風邪をひくと発熱し免疫が活性化するように、温度は生体活動を知る上で重要な特性の一つである。生体の温度計測におけるゴールドスタンダードは体温計であるが、生体表面に限られ、体内組織の温度は計測できない。本研究では体内組織の非侵襲な温度計測法の実現を目指して光音響技術に基づく手法の開発を行っており、特に照射する光パルスの数を削減することで計測時における対象組織の温度上昇を抑制することを目的としている。 本研究では研究期間全体を通じて光音響現象を利用した温度計測装置の開発および検証手段の開発に取り組んだ。温度計測装置に関しては、光源から出力される光パルスを2つに分割し、一方に遅延を与えて照射する光学システムを構築した。検証手段の開発に関しては、ファントム実験において試料の温度調整が可能な実験系の構築および薬剤によって細胞を活性化させ発熱を引き起こす手法の検証に取り組んだ。また、生体試料を用いた検証に向けて、生体内で自発的に発熱する褐色脂肪細胞の光音響分光計測を行い、褐色脂肪細胞の光音響特性を確認した。これらに加え、粒状の光強度分布を有するスペックル光を用いて信号増強を行う方法を検証した。本検証では、超音波センサの空間分解能によって装置の空間分解能が決まる音響分解能光音響顕微鏡を用いた。信号源となる光吸収体が疎に分布する試料へスペックル光を照射しパターンを変化させると、均一な照明に比べて強い信号が得られる照射パターンがあることを確かめた。
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