研究課題/領域番号 |
22K20525
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
江部 日南子 山形大学, 理学部, 助教 (90962762)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | ペロブスカイトナノ結晶 / 電荷移動錯体 / 発光デバイス |
研究実績の概要 |
ハロゲン化鉛ペロブスカイト結晶は、ハロゲン組成制御により簡便に光物性を制御することができ、高い発光量子収率および色純度を有することから次世代の発光デバイス (LED) 材料として期待されている。また、ペロブスカイト半導体は、有機スペーサーの導入により、量子閉じ込め効果をもつ低次元構造を形成し、バルク結晶に比べ優れた発光量子収率を得ることができる。低次元ペロブスカイトナノ結晶の有機スペーサーは、低次元構造の形成や表面の欠陥補填、材料安定化などの役割を担う。また、低い励起子準位をもつ有機スペーサーの導入により、有機スペーサー-ペロブスカイトナノ結晶間の効率的なエネルギー移動を発現することが期待できる。しかしながら、有機スペーサーのエネルギー準位を制御するためには、剛直かつ立体障害の大きな有機分子を用いる必要がある。これらのスペーサーは、ペロブスカイトナノ結晶の結晶格子の歪みを引き起こすため、ペロブスカイトとの複合化が困難である。我々は、電子ドナー分子および電子アクセプター分子から構成される分子間電荷移動錯体を新規有機スペーサーとして導入を試みた。分子間電荷移動錯体は、分子内電荷移動錯体分子に比べ、比較的立体障害が低く、分子選択により容易にエネルギー準位を制御することができる。初年度は、電荷移動錯体-ペロブスカイト複合化膜の創出と光物性解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、シンプルな溶液プロセスを用いて、均一かつ緻密な電荷移動錯体-ペロブスカイト複合化膜の開発に成功した。電荷移動錯体-ペロブスカイト複合化膜は、スピンコート法により作製を試みた。また、スピンコート過程で貧溶媒の2-プロパノールを滴下することにより結晶形成を促進させた。X線構造解析の結果より、電荷移動錯体および低次元ペロブスカイトナノ結晶の解析ピークを確認し、走査型電子顕微鏡観察より均一化かつ緻密な膜形態を観察した。また、紫外-可視吸収スペクトルより、電荷移動錯体に由来する特性吸収スペクトルを示した。さらに、電荷移動錯体を導入したペロブスカイトナノ結晶は、ペロブスカイトに由来する蛍光強度が著しく減少し、それに伴い蛍光寿命の短寿命化を示した。ペロブスカイトナノ結晶の非活性化の要因として、より低いエネルギー準位の電荷移動錯体へのエネルギー移動が生じたことが考えられる。以上より、電荷移動錯体-ペロブスカイト複合化膜の開発と膜物性評価を計画通り進めることができたため、「概ね順調に進展している。」と結論付けた。
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今後の研究の推進方策 |
電荷移動錯体-ペロブスカイト間のエネルギー移動機構を解明するため、電荷移動錯体-ペロブスカイトナノ結晶間の距離および励起子準位の依存性を検証する。材料間距離は、ペロブスカイトナノ結晶膜中の電荷移動錯体の添加量と光物性依存性を、蛍光スペクトルおよび蛍光寿命、過渡吸収スペクトルにより検証を行う。また、ペロブスカイトナノ結晶および電荷移動錯体の励起子準位のエネルギー差とエネルギー移動効率の依存性を検証する。さらに、ペロブスカイトナノ結晶のワニエ励起子準位と電荷移動錯体のフレンケル励起子を共鳴させ、ハイブリッド励起子状態の形成を目指す。以上、電荷移動錯体-ペロブスカイト複合化膜のエネルギー移動機構の解明により、新規エネルギー変換材料の創出を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、電荷移動錯体-ペロブスカイト複合膜をスピンコート法による作製およびこれらの光物性評価、結晶構造解析、膜形態の観察を主な研究課題とした。そのため、大規模な装置や物品の購入等必要なく、当該年度の実支出額が予定より大幅に下回った。一方で、当該年度では、大気環境下でペロブスカイト膜が不安定である課題が浮き彫りとなった。より高品質かつ高い再現性を担保するため、グローブボックスの循環装置の設置を予定しており、それらの購入に充てたいと考えている。
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