本課題は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、固体基板上における孤立高分子鎖の形態を直接観察することで、他の分子鎖存在に起因する協同運動性を排除した高分子鎖のセグメント運動のダイナミクスを解明することを目的とした。高分子鎖のセグメント運動は、ガラス転移など、高分子材料の主要な特性に寄与する重要な因子であるため、得られる知見は、高分子材料の力学・機能特性の更なる理解と制御に貢献すると期待される。 1年目は、当初の予定に従って、固体基板上における孤立高分子鎖形態を直接観察方法と解析方法の確立を行った。清浄な環境でSi(111)基板の洗浄とエッ チング処理を行うことで、原子的に平滑なSiステップ基板を調製した。スピンコート法に基づき、ステップ基板上に超希薄なポリスチレン(PS)クロロホルム溶液 をキャストすることで、PS孤立鎖が適度に分散して存在する試料を調製することに成功した。原子間力顕微鏡のACモード(ノンコンタクト)に基づき、軽微な触圧 (0.1 nN以下)での孤立鎖分子鎖を観察する方法を確立した。また、PS孤立鎖を高さ像を連続測定したデータに基づき、運動性に関する情報を抽出する手法を確立した。定温において、各位置の緩和時間をマッピングすることに成功した。 2年目は、当初の予定に従って、測定温度を系統的に変化させ、各温度におけるAFM像の経時変化を取得した。一年目に確立した方法論を用いて、各温度における緩和時間を抽出し各温度における緩和時間マップを作成した。これにより、ポリスチレン吸着鎖の各位置における緩和時間の温度依存性から活性化エネルギーを算出することに成功した。研究成果は、複数の学会にて発表済みである。また、一年目の研究成果とまとめて、トップジャーナルへの投稿準備中である。
|