研究課題
本研究では、光応答性部位を複合的に導入した金属錯体を構築し、光応答性部位の異性化を協奏的に作用させて高いイオン伝導度スイッチングを達成する。またその機構解明を通して、高いオン・オフ比を示す光誘起イオン伝導度スイッチング材料の設計指針を確立することを目的としている。今年度は昨年度に引き続き、二つの光応答性部位のイオン伝導への協奏的作用により発現した10^5のイオン伝導度スイッチングについて、その機構を考察した。この錯体はプロトンキャリアである硫酸水素イオンを対アニオンに有する系でありながら、光照射前のイオン伝導度は加湿下でも10^-7 S/cm以下と低かった。この原因を単結晶X線回折測定から得た結晶構造から考察した。その結果、結晶中の硫酸水素イオンは光応答性部位と多点で強く水素結合してトラップされ、回転運動によるプロトン授受が抑制されているためにイオン伝導度が低いことが分かった。また、プロトン伝導の活性化エネルギーも含めて考えると、二つの光応答性部位を同時に異性化すると、硫酸水素イオンの回転運動のトラップが解けるとともに水素結合ネットワークが形成され、プロトンがGrotthuss機構で伝導して高いイオン伝導度が発現することが示唆された。また、対アニオンや金属イオンを変えた対照実験群の結晶構造やイオン伝導度を比較した結果、光照射前の硫酸水素イオンの回転運動のトラップが高いイオン伝導度スイッチングに重要であることを明らかとした。さらに、この錯体の結晶性薄膜を作成してイオン伝導度を検討した結果、バルク粉末と同程度の高いイオン伝導度スイッチングを示し、バルク粉末よりも高速応答および長期作動が可能であることを見出した。また、結晶性薄膜の作成条件を精査する過程で、薄膜作成時の湿度環境が薄膜の結晶性やその配向に大きく影響することを実証した。
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