大腸が持つ2層の厚いムチン層による粘膜バリアは、多数の腸内細菌が生息する腸管の恒常性維持に寄与している。粘膜バリアの菲薄化は、腸上皮細胞表面への腸内細菌の定着を引き起こし、炎症性腸疾患の原因となりうる。GP2は、炎症を抑制的に制御する仕組みの一つである。本研究では、腸管管腔における細菌認識機構について、GP2とFimHとの結合におけるタンパク質および糖鎖レベルでの構造活性相関を明らかにする。 最終年度である今年度は、ヒトGP2の発現コンストラクトを構築した。ヒト膵臓cDNAプールを用いたPCRにより、全長を含むアイソフォーム1(FL)およびD10Cドメインが欠損したアイソフォーム2(FL-S)を増幅した。発現コンストラクトをCHO細胞に導入し、EndoH処理によるFimH認識糖鎖 (ハイマンノース型糖鎖) の付加を確認した。初年度に立ち上げたバイレイヤー干渉法(BLI)による相互作用系を一部改変し、組換えヒトGP2とFimHとの結合を検出した。組換えヒトGP2は、FLおよびFL-SのいずれもがFimHと結合した。しかし、FL-SはBLIにおける結合量がFLの半分であった。このことから、FimH結合ドメインであるD10Cドメインに加えて、ヒトGP2には未知のFimH結合領域が存在することを示唆した。 研究期間全体を通じて、in vitroでのGP2とFimHとの相互作用解析系を立ち上げ、解析を行った。相互作用解析系は、GP2およびFimHのいずれもリガンドタンパク質として固相化できることを確認した。マウスおよびヒトGP2を用いた解析から、組換えタンパク質発現系において、FimH認識糖鎖の付加に生物種間で差異が見られること、糖鎖結合部位近傍に糖鎖付加を制御している可能性がある領域が存在すること、さらに、GP2はこれまでに報告されていない新奇FimH認識領域を持つことを示唆した。
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