本研究は、カイコに感染するバキュロウイルスに、昆虫生体内において目的遺伝子の変異導入と優良変異体の効率的な選抜という指向性進化のサイクルを実行させ、組換えタンパク質の生産性改善を分子進化によって可能にすることを目的とする。 バキュロウイルスゲノム上の目的遺伝子のランダム変異導入技術の開発では、変異導入酵素融合T7RNAポリメラーゼが機能していることを調べるためにバキュロウイルスゲノムに組み込んだT7プロモーター直下にIRESと蛍光タンパク質を配置して発現をモニターできる系の作製を試みたが、ウイルス感染の過程でT7RNAポリメラーゼ非存在下でも蛍光タンパク質が昆虫細胞で発現してしまうことが分かり、レポーター系の構築は困難であった。また、変異導入酵素融合T7RNAポリメラーゼの発現タイミングや量が重要であると考え、バキュロウイルスのIE1、GP41遺伝子由来のプロモーターを使用して、変異導入酵素を発現させた。カイコ培養細胞で5回継代したウイルスの目的領域を次世代シークエンサーで解析したが、シークエンスの結果から顕著な変異導入は確認できず、変異導入酵素融合T7RNAポリメラーゼを用いた手法ではバキュロウイルスのゲノムに効率的な変異導入が困難であることが示唆された。 優良変異体が自動選抜されるようなシステムに利用するためのバキュロウイルスの増殖をコントロールできる遺伝子の探索では、まずはノックアウトするとバキュロウイルスの効率的な増殖に影響がある遺伝子8種類をそれぞれバキュロウイルスのゲノムから削除し、 次にそれぞれの遺伝子をレスキューしたときにウイルスの増殖性が回復するかを調べた。8種類のレスキューウイルスの内、1種類を除いて遺伝子をレスキューすることでウイルスの感染性が復帰している事が分かり、優良変異体の選抜に使用できる遺伝子を絞ることができた。
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