研究課題/領域番号 |
22K20585
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研究機関 | 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター |
研究代表者 |
岩崎 真也 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 農村開発領域, 任期付研究員 (40915261)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 土壌炭素貯留 / 長期連用試験 / 極端気象 / 気候変動レジリエンス / 畑作物 |
研究実績の概要 |
国際農研はタイ農業局と連携し、タイ国内の6地点において様々な営農管理に関する40年以上の長期連用試験を実施しており、令和4年度も試験を継続した。これまでの研究では、連用試験圃場での作物収量と土壌炭素のモニタリングが行われてきていたものの、土壌理化学性の変化については明らかにされていなかった。また、土壌炭素量を高めることで極端気象に対する作物生育の減少を抑えることが報告されており、土壌への炭素貯留は気候変動の緩和策にとどまらず、適応策としての期待も高まっている。そこで本研究では、第1に土壌の網羅的解析による土壌理化学性変化の総合的理解を、第2に気候変動レジリエンス向上の評価を行うことを目的とした。令和4年度は、主に第1の目的に取り組んだ。表層土壌と次表層土壌の採取および分析と過去に取得していた土壌の追加分析を実施することでデータの収集を行った。その結果、表層土壌では土壌炭素の増減に伴って、pH、有効態リン酸、交換態陽イオン(カリウム、カルシウム、マグネシウム)の濃度に有意な変化がみられた。その変化量は炭素含量の変化が大きかった東北タイの砂質土壌でより顕著にみられたことから、砂質土壌では、養分保持に関わる機能の大部分が土壌有機物に依存していることが示唆された。また、中央タイの圃場では、化学肥料の施用と耕起の有無、3種類の有機物(無施用、稲わらマルチおよび堆肥)の全ての組み合わせから12処理を設けている。同様に化学性の分析と統計解析を行った結果、土壌炭素含量、有効態リン、交換態カチオン、鉄、マンガン、銅、亜鉛の蓄積の傾向は化学肥料の有無と有機物の種類によって異なったが、深層への移動集積は不耕起栽培で顕著に見られ、土壌炭素の変化と化学性の変化が良く対応していた。このことから不耕起栽培による物理性の改善や、耕盤層の軟化あるいは消失が進んでいることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は長期連用試験圃場から深度別に土壌を採取するとともに、これまでに保管していた土壌の化学分析を進めた。測定項目については、計画通り進めることができたが、深度別に分析を行うこととした結果、サンプルの総量が予定よりも多くなったため、有機物蓄積に強く影響を及ぼす土壌の砂、シルト、粘土含量が異なり、同じ作物(キャッサバ)を栽培している3圃場に絞り分析を行った。上記成果の概要で延べたように、土壌有機物と化学性の増減は良く対応していることが明らかになり、第1の目的に対してある程度の結果を出すことができたことから、必要とするサンプル数は十分に確保することができたと考えられる。また、養分元素の移動パターンから、営農管理による土壌炭素の増減が土壌物理性に影響を与えているという仮説が得られた。また、土壌物理性の評価に向けて、令和5年5月に100ml円筒を用いて、不攪乱土壌の採取を行った。このサンプルに関して今後分析を進める。一方、生物性の評価については、タイ国内では、時間的にまた費用的に網羅的な解析は難しいことが分かった。そのため、まずは化学性と物理性の分析を進めることに注力するとともに、日本およびタイの大学と共同研究を行うことで生物性の分析ができるか引き続き調整を進めたい。 ここまでの研究では概ね予定に沿って進めることができたが、第2の目的である気候変動レジリエンスの向上評価については、土壌化学性と物理性の分析が完了したのちに、気象、収量を含めた多変量解析を行う必要があり、時間を要すると考えられるため、研究活動を加速させたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和5年5月に採取した不攪乱土壌を用いて、土壌の物理性の分析を進めたい。土壌有機物は、無機粒子を架橋することで土壌構造の発達を促し、土壌構造中に有機物を物理的に格納することで土壌炭素の安定化に寄与することが知られているが、長期的な連用試験圃場を用いて定量的な解析を行った例は少ない。そこで、特にこれまでの研究において深度別の土壌化学性の分析を完了しており、耕起方法によって養分元素の移動集積の傾向が異なった中央タイの連用試験圃場に注目して分析を行う。表層土壌の仮比重、透水係数、水分保持特性曲線を用いた孔隙分布を測定する。さらに、土壌物理性の総合的指標として、チャンバーを用いたガス拡散係数の現地測定を実施する。また、デジタル貫入硬度計を用いて、土壌表面から1m深までの土壌硬度の垂直水平分布をマップ化する。令和4年度には分析を行うことができなかった地点での化学性分析については、共同研究期間と連携することで順次進めていきたい。 土壌分析と並行し、6地点の連用試験圃場での気象データの収集を行う。降水量、気温、日射などの作物生育に関するパラメータと収量の変動に注目し、極端気象に際した作物生育および収量の増減について、土壌炭素、化学性および物理性を含めた多変量解析に供することで気候変動レジリエンス向上の評価に繋げたい。 これまでの研究で得られた、土壌炭素と化学性の変化に関して令和5年6月に米国ウィスコンシンで開催される「国際砂質土壌学会」で、中央タイでの耕起方法と養分元素の移動集積については、令和5年9月の土壌肥料学会愛媛大会で発表予定であり、論文発表に向けて準備中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は助成金の受領より前にタイへの主な出張が必要だったため、国際農研の運営交付金によって支出した。そのため、機材の購入に充てたが、差額によって次年度使用額が生じた。7436円と少額なため、令和5年度に予定しているタイ出張の旅費に充てたい。
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