研究課題
タイ農業局では、タイ国内の6地点で45年以上に及ぶ長期連用試験を実施している。国際農研では本課題について、長期にわたり共同研究を実施している。これまでの研究では、作物収量および土壌有機炭素含量を中心とした基礎化学性のモニタリングが行われてきたものの、物理化学性についての詳細な分析は行っていなかった。また、土壌炭素量を高めることで極端気象に対する作物生育の減少を抑えることが報告されており、土壌への炭素貯留は気候変動の緩和策にとどまらず、適応策としての期待も高まっている。そこで本研究では、第1に土壌の網羅的解析による土壌理化学性変化の総合的理解を、第2に気候変動レジリエンス向上の評価を行うことを目的とした。令和4年度は、表層土壌と次表層土壌の採取および分析と過去に取得していた土壌の追加分析を実施することでデータの収集を行った。また、令和5年度には土壌輸入に関わる覚書をタイ農業局と締結し、日本国内への輸入を行い、約300サンプルに対して土壌物理化学性の網羅的解析を実施した。その結果、長期間の営農管理の違いによって、土壌構造および耕盤層の形成などの土壌物理性に明瞭な差が見られ、それに伴う土壌炭素の垂直分布の違いが確認された。また、得られたデータを統合し、構造方程式モデリングを始めとする多変量解析を実施し、営農管理の違いが土壌炭素貯留、土壌物理化学性、および作物収量に与える影響の相互作用を可視化した。その結果、砂質土壌では、土壌有機物に由来する水分及び養分保持機能が粘質土壌に比べて卓越し、相対的に土壌炭素貯留による作物収量向上効果が大きいことが明らかになった。以上成果は、国内外の学会で報告し、原著論文として投稿した。そのうち2023年度日本土壌肥料学会愛媛大会では若手優秀口頭発表賞を受賞した。概ねの目的は達成したが、第2の目的であった気候変動レジリエンスの評価については現在解析中である。
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