前年度までに市販のRNA抽出キットを用いた木材(特に心材及び移行材)からのRNA抽出が困難であることを確認したため、2023年度には主に樹木の心材及び移行材からのRNA調製法の検討を実施した。一般に木材の特に心材部は死細胞で占められており、生命活動がない部分である。そのため、わずかに生き残った細胞の遺伝子を得なければならず、市販RNA抽出キットに用いる試料量の約100倍に相当する試料量に対してCTAB法を用いてRNAの抽出作業を実施し、その後、市販のRNA精製キットを使用して純度の高いtotal RNAを得ることに成功した。サンプリング時期の異なる2種のスギ(冬1月、夏9月)からそれぞれ5部位(心材、移行材、辺材内側、辺材外側、葉)の計10検体から total RNA の抽出に成功し、全RNAサンプルについてRNA-seqを実施した。想定した通り心材や移行材では得られたデータ量が少なく、辺材や葉などでは十分なデータ量を得た。本データについては現在、de novoアセンブリ、マッピング、アノテーション等の解析を実施中である。 研究期間全体を通じ、スギ木材の心材・移行材・辺材からの粗酵素調製液の調製方法の確立、total RNA 抽出方法の確立、また次いで、得られたtotal RNAを用いたRNA-seqによりスギ木材、特に心材部からも遺伝子発現データの取得に成功した。さらに、スギ種子から無菌的にスギ実生を育成し、次いで同個体からカルスの誘導に成功した。現在、液体震盪培養にて増殖させている状況であり、今後、本スギカルスからも同様にRNA-seqのデータを得る準備を整えた。
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