研究課題/領域番号 |
22K20594
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
山岸 松平 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 任期付研究員 (20944119)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 木材組織 / 多湿材 / 心材 / 広葉樹 / 壁孔 / 木部繊維 |
研究実績の概要 |
本課題では、特定の広葉樹で発生する多湿心材(高い含水率を示す心材)がどのようなメカニズムで生じるのかを木材組織構造の観点から理解することを試みる。この目的のため、本課題は、①多湿心材に至るまでの木材組織への水の流入過程を、多湿心材を発生させる数樹種で可視化するとともに、②多湿心材の発生に関連する木材組織上の構造的特徴を明らかにする。 初年度に当たる2022年度は、①について、多湿心材を発生させることが報告されているユーカリに着目し、東京大学樹芸研究所にて採取したユーカリ・サリグナの成木について、組織レベルの生材含水率分布を測定した。また②については、森林総合研究所の木材標本庫に所蔵されている既存プレパラートを用いて光学顕微鏡レベルの構造解析をおこなった。多湿心材を発生させる樹種と発生させない樹種の組織構造を比較したうえで、前者に強く関連する特徴を抽出した。得られた成果は以下の通りである。 ①:生材含水率の測定により、ユーカリ・サリグナは多湿な心材を持つことが確認できた。さらに辺材にも多量の水を含んでおり、材全体が極めて高い含水率をもつことが分かった。多湿心材を持つ樹種では一般に、心材よりも辺材の含水率が明らかに低くなるため、ユーカリ・サリグナのパターンは例外的であり、他の樹種と異なるメカニズムで多湿な心材を発生させている可能性があることも示唆される。 ②:多湿心材を発生させない樹種に対して、多湿心材を発生させる樹種では、木部繊維がもつ壁孔の特徴と、放射組織の構成に関連性が見られることが分かった。次年度はこの結果に基づき、木部繊維および放射組織の微細構造を対象として、集中的に解析を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は1樹種について、生材中の水分布を軟X線やクライオ走査電子顕微鏡法で可視化する予定であったが、含水率による大まかな水分分布の把握までしか実施できておらず、進行はやや遅れている。しかし、解析の準備や来年度の他樹種のサンプル調達の準備は着々と進められており、また、光学顕微鏡レベルの構造解析からは、想定以上に、多湿心材と関連する木材組織構造上の特徴が見出すことができ、解析対象とする構造的特徴に明確な見通しが立てられた。以上より、研究の進展はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
水分布の解析についてはユーカリ・サリグナの解析を確実に済まし、新たなサンプル木でも同様に進める。本年度の成果より、多湿心材に樹種間でのパターン差がある可能性があること、木部繊維と放射組織の関連性があることが示唆されたため、今後の解析ではこれらに注視する。木材組織構造の解析においては、木部繊維と放射組織について、細胞間の通水経路となる壁孔に注目して解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
いくつかの計画していた出張が、他の課題による出張を兼ねて実施できたことから、他の資金から旅費を賄えた。また予定していた人件費が、人材確保に遅れが生じたことから未使用となった。 次年度は、研究推進のために必要性が生じたため、雇用した研究補助員に電子計算機による解析補助も依頼する予定である。そのため、繰り越された助成金をこの人件費と補助員が使用できる電子計算機の購入に充てる。
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