研究課題/領域番号 |
22K20602
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
倉澤 智樹 愛媛大学, 農学研究科, 助教 (90961201)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 琉球石灰岩 / X線CTスキャン / 移流分散モデル / 流体シミュレーション / 地下ダム |
研究実績の概要 |
本年度は,琉球石灰岩内部の3次元間隙構造モデルを取得するためのプログラム開発と間隙構造分析に注力した.開発したコードを利用することで,直径50mmの琉球石灰岩ボーリングコアのCT画像を解析したところ,間隙率(全体積中における間隙体積の比率)が約0.2と推定された.この値は,先行研究にて実験的に推定された結果と一致しており,開発コードによる解析の妥当性を示している.また,石灰岩内部の間隙構造に目を向けると,内部の間隙は連続的なものと,独立して存在している小さなものが共存しており,間隙クラスターの体積のヒストグラムは3オーダーを超えた幅広い分布を示した.これは,琉球石灰岩内部における地下水の通過する流路幅が多様であり,時間スケールの大幅に異なる地下水流動と特異な物質輸送特性を有している可能性を示唆する.このような時間スケールの大幅な違いが存在する条件下での物質輸送の基礎的な知見を取得するため,高透水部(時間スケールが小さい)中に低透水部(時間スケールが大きい)を有するシンプルな地盤モデルを対象に,ラボでのカラム実験を実施した.結果的に,物質濃度が長時間に渡ってゼロに到達しないテーリング現象の発現を確認した.さらに,取得した3次元間隙構造モデルの内部において,Navier-Stokes方程式と移流拡散方程式を数値的に解くことで,複雑な間隙構造における水溶性物質の遷移状況の捕捉にも成功した. また,フィールド試験としては,沖縄県にあるギーザ地下ダムの帯水層を対象として単孔式希釈試験を実施し,琉球石灰岩における物質輸送特性を現地調査した.結果的に,流速が地表面からの深さに応じて大幅に変動する状況を補足した.これは琉球石灰岩が空間的に大きな不均一性を有していることを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
琉球石灰岩内部の3次元間隙構造モデルを取得するためのプログラム開発と間隙構造分析を遂行し,石灰岩内部の間隙構造を評価することができた.また,取得した3次元間隙モデルにおいてNavier-Stokes方程式と移流拡散方程式を数値的に解くことで,複雑な間隙構造における水溶性物質の遷移状況の捕捉にも成功した.また,ギーザ地下ダムでのフィールド試験にも着手し,流速が地表面からの深さに応じて大幅に変動する点を確認することができた.この結果は,琉球石灰岩の帯水層が空間的に大きな不均一性を有していることを示唆し,地下水質管理にとって重要な知見といえる.以上から,「おおむね順調に進展している」と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,琉球石灰岩中の物質輸送現象のデータを高精度に計測するため,ラボレベルでの物質輸送実験を計画している.ラボ実験では,琉球石灰岩コアをアクリル製カラムにセットし,模擬的に上から下へ地下水流れを導入する.その後,上部より物質トレーサとしてNaCl水溶液をパルス状に投入し,下部の観測点で経時的に濃度を計測する.このとき取得した時系列濃度データに移流分散モデルやその他モデル(MIM,CLT,FADE,CTRWモデルなど)をフィッテングし,各モデルの再現能力を評価し,最適なモデルを調査する.また,各モデルがなぜ合うのか?あるいは合わないのか?,をエビデンスに基づいて考究するため,X線CTから取得した3次元間隙モデル内部で物質輸送をシミュレートし,原因を究明する.
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