研究実績の概要 |
温室作物生産においては,作物の生育および収量を決定づける生理生態反応である光合成を,環境調節によって通常レベルより高い状態に促進させることが試みられている.同時に,営農コストや環境負荷削減の観点から効率的に光合成を促進する環境調節技術の開発も求められている.効率的に光合成を向上させ得る手段の一つとして,光合成を構成する各プロセス(葉面境界層抵抗,気孔抵抗,葉肉抵抗,生化学プロセス)のうち光合成速度を最も制限しているプロセス(ボトルネック)を最適化することが挙げられる.そこで本研究では,光合成を構成する各プロセスがそれぞれどの程度光合成速度を制限しているかを定量的に評価することを目的とした.まず,温室イチゴを対象として,環境ストレスの程度がことなる複数の気象条件において,光合成速度が気孔抵抗,葉肉抵抗,生化学プロセスそれぞれによってどのように制限され得るかを調べた.その結果,光合成の制限要因は,中程度の環境ストレス条件までは気孔抵抗が主要因であったが,強い環境ストレスの元では葉肉抵抗も光合成の制限要因となり得ることが明らかとなった(Yokoyama et al., 2023).次に,従来の光合成制限要因の定量的解析においては考慮されてこなかった葉面境界層抵抗による光合成制限を初めて定量的に評価した.温室は,屋外よりも風速が小さく葉面境界層抵抗が相対的に大きくなる.そのため,温室作物においては,二酸化炭素の拡散の抵抗と葉の熱収支の2つのプロセスを介して光合成に影響を及ぼす葉面境界層による光合成制限要因を考慮する重要性を示した(投稿準備中).また,本研究課題を通じて計測した大量の個葉のガス交換および気象データを基にモデルを構築し,個葉光合成の観点において最適な環境調節を探索するシミュレーションを行った(投稿準備中).
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