研究課題/領域番号 |
22K20605
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
渡部 恵司 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 上級研究員 (50527017)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | イムノアッセイ / 田んぼの生きもの調査 / 水生生物 / 農業水路 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、水田や農業水路の水に含まれる水生生物由来のタンパク質を免疫測定法(イムノアッセイ)により検出し、対象生物種の在否・多寡の推定可能性を探求することを目的とする。具体的には、①魚類や両生類などの対象生物種およびタンパク質を選定し、その検査試薬を作成する。②微量な対象タンパク質を検出できるように、効果的・効率的なサンプリング方法および前処理方法を明らかにする。③作成した方法による検出精度と検出力を示し、対象生物種の個体数密度の推定可否を明らかにする。本年度はこのうち①、および予備的に③に取組んだ。 【①対象生物種の選定および検査試薬の作成】既存の抗原・抗体のデータベースの検索や既存の免疫測定キットの情報収集、免疫測定の受託試験を行う企業への聞き取りを行った。イムノクロマト法による既存キットとして、食品に含まれるアレルゲンの検査用に魚類および甲殻類の検査キットが、発電施設用にムラサキイガイ幼生等の検査キットが市販されていることが明らかになった。そこで、これらキットの利用可能性を追究する方針とした。 【③検出精度、検出力および個体数密度の推定可否の検討】魚類および甲殻類の検査キットの検出精度と検出力を確認した。検出精度については、水路に生息する魚類(メダカ、ドジョウ、モツゴ、ヨシノボリ類)、両生類(ニホンアカガエル幼生、アズマヒキガエル幼生)、甲殻類(スジエビ類、アメリカザリガニ)、貝類(タイワンシジミ)をサンプルとして、魚類および甲殻類の検査キットによる検出可否を調べた。その結果、魚類の検査キットについては魚類のみ、甲殻類の検査キットについては甲殻類のみで陽性反応を呈することを確認した。また、検出力については、モツゴのサンプルについて10倍、100倍…と希釈して試験し、検出可能な濃度を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記①で独自の検査試薬を作成に既存キットを活用する方針に変更したものの、結果的に検査試薬に要する期間を待たずに③の試験を進めることができた。このため、全体として概ね順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
【②サンプリング方法および前処理方法の検討】水田域の水に低濃度に含まれる魚類および甲殻類のタンパク質を高感度に検出するため、環境DNA分析法を参考にしてサンプリング器材や採水量などのサンプリング方法を検討する。また、既存の免疫測定キットを参考に、浸出やろ過、沈殿などを試しながら、当該タンパク質の検出に対して効果的・効率的な前処理方法を明らかにする。 【③検出精度、検出力および個体数密度の推定可否の検討】発電施設用のムラサキイガイ幼生の検査キットによって水路等でみられる淡水産貝類(希少種のイシガイ目貝類、農業水利施設の通水阻害を引き起こすカワヒバリガイやタイワンシジミ)を検出できるかどうかを検討する。 また、対象生物の飼育密度が明らかな水槽の水サンプルを、10倍、100倍…と段階的に希釈しながら検査することにより、検出可能な最低濃度を把握する。検出力の試験において発色強度を計測し、濃度と発色強度間の線型性を調べて、発色強度から濃度や個体数密度を推定できるかどうかを検討する。教育や市民活動の現場での活用を目指して、分光光度計などの高額な分析装置を用いずに、スマートフォンなどで撮影した画像から発色強度を測定する方法を検討する。実際の水田や水路において、免疫測定法による調査と捕獲調査を行い、結果の比較と留意点の整理を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
試験に用いる生物サンプルを所属研究機関の敷地内や近隣の水域で収集したこと、また企業等への聞き取りをweb会議で実施したことから、旅費が削減された。また、試験が試行錯誤となり研究補助が生じなかったことから、人件費が生じなかった。既存の検査キットを利用した試験を実施したことから、独自の検査試薬作成に要する役務が生じなかった。以上により、次年度使用額が発生した。 次年度は、発電施設用のムラサキイガイ幼生の検査キットによって水路等でみられる淡水産貝類を検出できるかどうか、またこれらの淡水産貝類と既存の海水産貝抗体との反応性の確認試験に充当する。
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