本研究課題は、水田水域(水田や農業水路等)の水に含まれる水生生物由来のタンパク質を免疫測定法(イムノアッセイ)により検出し、対象生物種の在否・多寡の推定可能性を探求することを目的とした。 水路等に生息する淡水二枚貝と、海産イガイ類の幼生を基にした既存の抗体との反応性を、ドットブロット法およびホールマウント染色法により検討した。ムラサキイガイ・ミドリイガイを基にした各2種類の抗体が、農業水利施設の通水障害の原因となるカワヒバリガイと反応すること、一方でイケチョウガイ等のイシガイ類数種とは反応しないことを明らかにした。また、このうち2種の抗体を選定し、イムノクロマト法によるカワヒバリガイの検出キットを試作した。カワヒバリガイの幼生は0.1mm程度と微小なため顕微鏡でないと有無を判別できないが、イムノクロマト法により幼生を検出しうると考えられる。併せて、カワヒバリガイの幼生のサンプリング方法を検討した。 昨年度に引き続き、魚類および甲殻類の検査キットと、水生生物との反応性を確認した。魚類の検査キットについては、魚類(4種)は陽性、貝類(1種)は陰性、カエル類幼生(2種)・甲殻類(2種)・水生昆虫(2種)は陽性・陰性の両ケースがあった。一方、甲殻類の検査キットについては、甲殻類は陽性、貝類・魚類・カエル類幼生は陰性、水生昆虫類は陽性・陰性の両ケースがあった。また、モツゴおよびアメリカザリガニを対象として、それぞれ魚類および甲殻類の検査キットで検出できる最低濃度を明らかにするとともに、濃度と発色強度との関係を明らかにした。これらの検査キットは、水田水域に生息する魚類・甲殻類の特異的な検出には適さないものの、水田水域で採食する高次捕食者(トキやコウノトリ、サギ類等)の餌資源の指標に活用しうると考えられる。
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