研究課題/領域番号 |
22K20610
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
オブライエン 悠木子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20582464)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 違法取引個体 / 感染症 / 愛玩鳥 / ワカケホンセイインコ / フィリピン / トリボルナウイルス / クラミジア / オウム病クラミジア |
研究実績の概要 |
新興感染症の制御には、野生動物での病原体の監視が必要である。野生動物は愛玩用に違法に国際取引されることがあるが、動物が保有する感染症が動物とともに輸入され、さらにこれらの動物が籠抜けや飼育放棄により野生化し感染源となることが考えられる。感染症は地球規模の問題であるにもかかわらず、愛玩動物の病原体の多くは輸出入の過程において監視対象から外れており、海外原産のエキゾチック動物の病原体の保有状況は明らかになっていない。そこで、愛玩用として国際違法取引が摘発された動物、日本に輸入された動物、日本で野生化した海外原産の動物における病原体の調査を行うことで、国際取引されるエキゾチック動物にどのような病原体が分布するかを調べることとした。 ①フィリピンの違法取引個体でのトリボルナウイルスの検出 フィリピンにて違法取引が摘発され環境保護施設に収容されている鳥類153羽及び輸出許可を有する動物飼養施設の鳥類147羽の糞便を材料としてRT-PCRを行った。その結果、違法取引個体であったルソンパロット(Tanygnathus lucionensis)3羽にてトリボルナウイルスの遺伝子を検出した。 ②日本で野生化した外来種のオウムにおけるクラミジアの検出 日本に愛玩目的で輸入された海外原産の鳥が野生化した事例としてワカケホンセイインコ(Psittacula krramerimanillensis)がある。ワカケホンセイインコは緑色の大きな外来種の鳥であるが、東京都を中心として100羽から1000羽を超える大群が公園、病院、寺院の木、住宅街の竹藪にねぐらを形成している。ワカケホンセイインコ66羽の糞便からPCRにてクラミジアを検出し塩基配列を決定したところ、3検体にてオウム病クラミジアが検出された。オウム病クラミジアを保有した3検体についてHela細胞を用いて分離に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フィリピンでの違法取引個体のオウムおよび国内で野生化した外来種のオウムのサンプルでの病原体の検出に成功した。フィリピンでは、動物園3ヶ所、環境保護施設2ヶ所から採取したサンプルを、ワカケホンセイインコは公園、寺院、民家と3ヶ所から採取したサンプルを用いており、十分なサンプリングが行えている。 今年度はトリボルナウイルスとクラミジアについて病原体の塩基配列を検出した。フィリピンにおけるトリボルナウイルスの検出は初めてであり、トリボルナウイルスの由来などの今後の調査へとつながる重要な結果を得た。クラミジアについては、Hela細胞を用いてオウム病クラミジアの分離を試み、封入体を観察できたことから分離に成功した可能性が極めて高い。近年、日本で野外株を分離した例は珍しく、実験動物での病原性評価やワクチン開発への応用など、さらなる研究へとつながる重要な材料を得た。また、これまで明らかな病原性が示されていたオウム病クラミジアのみでなく、ネオクラミジアや分類されていないクラミジアが相同性検索にて上位に出ており、鳥類を扱う際に注目すべき新たな微生物の候補となった。
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今後の研究の推進方策 |
フィリピンにてPCRにて検出されたトリボルナウイルスに関して、塩基配列を決定して確認を行う。世界的に見て特殊な株であれば、分離を試みる。また由来を明らかにし、由来もとに他に感染している鳥がいないか調査する。 今回PCRと塩基配列決定にて検出された分類されていないクラミジアを系統樹解析し、おおよそどの分類であるかの予想をし、特異的なPCRにて確認する。分離したクラミジアの全ゲノムを確認し、動物接種実験により過去の分離株との病原性の比較を行う。また、ワクチン開発に今回の分離株が使用できないか検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
鳥インフルエンザの発生により、ウイルスの分離に用いる予定であった発育アヒル卵の入手が困難となったため。
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