研究実績の概要 |
本研究の目標は、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)豚心筋症モデルの摘出心臓を用いたex vivo解析により、ジストロフィン欠損による心筋症の初期病態を機能と形態の両輪で解明することである。 研究期間全体を通じて、この豚モデルの保因雌豚を3回交配させ、5頭(97,98日齢)を選抜し、生体でのイソフルラン吸入麻酔下での心電図検査を実施した。また、5頭ずつ選抜(32から39日齢)、心臓を摘出し、ランゲンドルフ法による灌流心を作成、心電図記録、不整脈誘起、光学マッピング解析を実施した。保因豚生体においては、イソフルラン吸入麻酔下で、アドレナリン(1mg/20ml)を投与することにより、チアノーゼおよび多形性心室頻拍を示した。灌流心においては、イソフルランを脂肪乳剤により溶解させた灌流液で灌流後、アドレナリン(0.5mg/10ml)を灌流液に注入、不整脈を誘起した。その結果、全ての子豚でイソフルラン灌流のみでは不整脈が誘発されなかったが、保因の子豚では、アドレナリン注入後に多形性心室頻拍を示し、心室細動に至った。さらに、多形性心室頻拍あるいは心室細動に至った保因子豚の灌流心において、灌流液に膜電位感受性色素(RH237)を添加し、心臓表面の蛍光シグナルの変化を高速度カメラで計測した。その結果、多形性心室頻拍時においては右心室の一部で興奮伝播が伝わらない箇所が観察され、心室細動に移行した際には、心室では正常な興奮伝播はほとんど認められず、リエントリーが起きていた。 以上の結果から、生体および摘出灌流心の両方においてイソフルラン麻酔による不整脈発生を再現でき、BMD豚心筋症モデルの有用性を確認した。さらに、BMD豚心筋症の不整脈時の心筋の異常興奮伝播(機能異常)が明らかになった。今後は、灌流後の心臓の組織病変を形態学的に精査することで、不整脈の病理発生機序を解明したいと考えている。
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