研究課題
モデル植物シロイヌナズナには、クラスXIミオシンが13種類、クラスVIIIミオシンが4種類存在する。ミオシンXIの既知の主要な役割には、原形質流動の駆動がある。ミオシンVIIIは原形質連絡の開閉に関わることが示唆されている。しかし、植物ミオシンには機能未知ドメインが存在しているために、その生理機能は十分に理解されてはいない。そこで本研究では、植物ミオシンの様々な機能未知ドメインが関わる生理機能およびその機構を明らかにすることを目的とした。去年度は、シロイヌナズナミオシンの機能未知ドメイン欠損体の酵素活性を測定し、生化学的な側面から機能未知ドメインの生理的な役割を明らかにした。令和5年度は、機能未知ドメインのみを大腸菌にて精製し、高濃度に濃縮した。濃縮したタンパク質を用いて生化学的実験を行い、生理的役割を探索した。また、シロイヌナズナのクラスVIIIミオシンのカルモジュリン様タンパク質による運動調節機構を詳細に明らかにした。令和5年度においては、他のクラスVIIIミオシンのカルモジュリン様タンパク質による運動調節機構を明らかにし、カルシウムによる影響も調べた。さらに、シロイヌナズナ細胞内においてアクチン束にシロイヌナズナミオシンが与える影響を定量し、シロイヌナズナのミオシンの新たな生理機能の一端を明らかにした。令和5年度は、シロイヌナズナのミオシンのどのドメインがアクチン束に影響するのかを、分子生物学的・生化学的手法で調べた。
2: おおむね順調に進展している
高濃度の植物ミオシンの機能未知ドメインは、生理的バッファーで凝集する性質を有していた。今後は、より生体内に近い条件での実験を検討する。シロイヌナズナのクラスVIIIミオシンのカルモジュリン様タンパク質による運動調節機構に関する研究は、査読付き国際誌に掲載された。さらに、ミオシンXIの運動調節機構に関する軽鎖の探索を国際共同研究として開始した。in vitro motility assayにて、軽鎖によるミオシンXIの運動調節機構を調べている。アクチン束化実験に関しては、ミオシンXIの変異体を昆虫培養細胞で発現・精製し、生化学的解析によりアクチン束に関わる部位が、ドメインレベルで絞り込めた。上記のような進捗から、おおむね順調に進展していると判断した。
シロイヌナズナのクラスVIIIミオシンの機能未知ドメインの生理的機能をさらに探索するために、ミオシン全長コンストラクトを作製し、アクチンを加えるなど、より生体内に近い条件で実験を行う。シロイヌナズナミオシンXIの軽鎖による運度活性への影響に関しては、共同研究者と論文を執筆中である。論文は2024年度には投稿予定である。アクチン束化実験に関しては、ミオシンXIの変異体を昆虫培養細胞で発現・精製し、生化学的解析によりアクチン束に関わる部位のアミノ酸レベルでの絞り込みを行う。
本年度は、植物ミオシンの機能未知ドメインに関する実験やアクチン束化実験に関して、作製したコンストラクト数が少なかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、変異体などを多数作製し、昆虫培養細胞で発現・精製する予定である。さらに、生化学的解析によりアクチン束に関わる部位をアミノ酸レベルで絞り込むために、遺伝子操作試薬や昆虫培養細胞試薬を計上する予定である。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Journal of Experimental Botany
巻: 75 ページ: 2313~2329
10.1093/jxb/erae031
Scientific Reports
巻: 13 ページ: 19908-19908
10.1038/s41598-023-47125-5
生化学
巻: 95 ページ: 374~378
10.14952/SEIKAGAKU.2023.950374
Seibutsu Butsuri
巻: 63 ページ: 91~96
10.2142/biophys.63.91
http://www.bio.s.chiba-u.ac.jp/ito.html