研究課題/領域番号 |
22K20624
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 昌平 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (10963259)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞分裂 / 細胞膜 |
研究実績の概要 |
細胞は、細胞分裂時に主にアクトミオシンからなる収縮環を形成し、細胞膜に係留されたアクトミオシンの収縮によって自身を二分する。細胞膜を構成する脂質二重層は本来高い流動性を持つとされているが、脂質二重層に係留された収縮環の構造的及び空間的な安定性がどのように維持されているのかはわかっていない。これまでに、細胞分裂時に細胞膜の流動性が低下することが報告されているが、その分子機構や意義は未解明のままである。そこで本研究は、ヒト培養細胞と試験管内再構成系を用いて、細胞分裂時における細胞膜の流動性変化を定量的に解析し、その分子機構を明らかにすることを目指している。 当該年度の研究は、細胞分裂期における細胞膜の流動性解析に焦点を当てた。まず、細胞膜の流動性を詳細に解析するために、微小顆粒を細胞膜に係留させて顆粒の運動を追跡するという新たな技術を開発することに成功した。これにより、アクトミオシンが係留されている細胞膜内側の運動を定量的に解析することが可能になった。この技術を用いることで、細胞分裂期において細胞膜の流動性が制限されていることがわかった。また、薬剤を用いた実験により、細胞膜の流動性の制限は、アクチン繊維非依存に起きていることがわかった。今後は、薬剤やRNA干渉法を用いることで、このメカニズムを明らかにし、細胞膜の流動性制御の意義を調べる。これらのアプローチにより、細胞分裂を制御する基本原理の一端を解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず初めに、細胞膜の流動性を解析するために、光退職後蛍光回復(FRAP)法による解析を試みた。しかし、FRAP法では、細胞膜における分子の拡散だけでなく、蛍光分子の細胞膜への流出入も考慮する必要があるため、流動性の解析が困難であった。そこで、より正確に細胞膜の流動性や動態変化を調べるために、微小な顆粒を細胞膜脂質に係留させる技術を新たに開発した。この技術を用いて、微小顆粒の運動を追跡することで、アクトミオシンの存在する細胞膜内側の動態を解析することが可能になった。細胞分裂時の顆粒の動きを観察すると、顆粒の運動は細胞全体で制限されていることがわかった。アクチン繊維の重合を阻害した条件でも顆粒の運動は制限されていた。この結果から、アクチン繊維系非依存のメカニズムによって、細胞膜の流動性は制限されていることがわかった。これらの進展は、当初の予想とは異なったものの、新たな技術を開発したことで新たな知見を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞分裂時の細胞膜の特性と動態を調べるために、これまでに確立した新たな技術を用いて、細胞周期を通した微小顆粒動態解析を行う。これにより、細胞周期や細胞の状態による細胞膜の特性変化を詳細に明らかにする。また、RNAiや薬剤を用いた実験により、細胞膜の流動性に影響を与える因子を探索する。その上で、試験管内再構成系を用いることで、関与する因子の作動原理を詳細に明らかにする。細胞膜の流動性に影響を与える因子のRNAiや阻害剤を用いることで、細胞分裂における細胞膜の流動性制御の意義を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新たな知見が得られた結果、当初の計画から実験技術を変更したため、次年度使用額が生じた。次年度では、新たな実験技術と解析を発展させるために使用する予定である。
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